キャンパスリーダーの独り事

企業内「人びとの日常」を見る
――「組革研」の現場から  No.222

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  6月11日以来、このコラムをサボっておりました。いつもお目通しくださっている方がたには失礼なことでした。言い訳をすればこの暑さ、というよりも私の場合はこの湿度、寄る年波にはなんとも応えました。
  まだ湿度は頂けませんが、秋の気配をうっすらと感じる昨今、このコラムを再開させていただきます。

  まずは現場、今月の「組革研」第521会期に集まった人たちの、「企業内での日常」から。

  当日に「腹が痛いから休ませて」と連絡があり、納期も守らない部下に対し、心の中に嫌われたくないから「這ってでも出てこい」とも言えず、後日に叱りもせず、信用・信頼を失くすよと言い聞かせる程度で、許容しあきらめている自分でした。(44歳)
 

  毎日元気に会社に来ていれば昇格試験が受けられると言われているが、今年、私は受けることができなかった。昇格意欲があるわけではないが、パワハラ上司の下で耐えながらも毎日会社に行ったのに、試験が受けられない程、自分が評価されていないんだ、とショックを受け会社を少し休んだ。
  もう会社に行きたくなかったが、奥さん(自分の)も心配しているのでとりあえず職場復帰することにした。仕事は手抜きをし、ある時間になったら帰るという状態だった。自分がやる気を出さなくても、困ることはないと開きなおっていた。(30歳)
 

  私は部下を道具としてしか見ないロボット症上司だった。若くして大きなプロジェクトを任され、それなりの成果を出し、いい気になっていたが、まったくの勘違いであった。
  部下に仕事を任せてみるものの、気に入る成果が出ず、いつもイライラしていた。
  かといって部下に嫌われたくないから、「助ける」という名目で仕事を取り上げていた。
  自分は良いリーダーだと思っていた。(45歳) 

 
  半年間続けてきましたが、本人の意識は変わらず、仕事を頼むと、また仕事を増やすのか……となる状態です。そんなマインドの人とは仕事はできないと考え、配置換えを上司とも相談しています。
  人が換われば自分がやりやすくなるだろうという自分本位で物事を考え、相手(部下)のことをよく知りもせず、これまで仕事を通して接してきたわずかな情報があれば、正しい判断ができると考えていました。(40歳)
 

  生産基幹システムの導入を担当し、現状プロセスの把握から要件定義をイヤというほどやってシステムを導入したのに、運用が想定通りできていない、また、その肝となるプログラム機能を使いこなせる部下が育たず、いまだ自分しかできない、この先どうすればよいのかと、悩んでいました。(47歳)
 

  50年近く経過した○○○の図面は古文書に近く、過去の改造履歴も情報が更新されていないため、部品引合を頂いた際に部品特定に時間と労力がかかります。残業時間も増え続けており、中途入社2年目の同僚も「辞めたい」ともらすようになりました。(32歳)
 

  大規模(営業)拠点に着任し、自分のやるべき仕事、お客様に対する対応が何げなくわかってきて、その中で日々自分では一生懸命、自拠点の運営を行い、満足しているつもりになっていた。(43歳)
 

  上司は、自らの意志を正しいと信じているようで、部下からの反発や不満も多かった。
  その間に入り、業務や組織が円滑にいくように尽力してきた。
  「組革研」への参加を指示されました。私の気持ちは、「私より上司を行かせるべき」と思っていました。(51歳)

  組革研のキャッチフレーズは「『変わる』原体験」です。そのために参加者は、4日めの夕から5日めの朝にかけて、(1) 今までの自分の姿に目を据え、(2) これからの自分の姿に思いを固めます。
  各人のこの過程はまさに真剣そのもの、ですが私にとっての痛し痒しは、徹夜になってしまうことです。
  上記の短文は、その中の (1) のみを引用した原文です。発表された8人のそれにすぎませんが、それらは、中味は異なれど、全参加者の日常を代表していると言えるようです。
  ついでに、上記に先立ってその中の一人であるHさんから出された質問をめぐっての、全員の前での当事者と私とのやりとりを紹介します。

(Hさんの質問):「やる気」を出していない人に「やる気」を出させるにはどうしたらいいか。
  「やる気」を出さなくても本人が困ることがない。(クビになることもなく、給料が下がるわけではない)
(私の発言):再三申しているように、「やる気」がない人などいません。このことを信じることができますか?
  ここが重要なところです。あなたのご質問を見ると、「やる気」のない人と思い込んでいるんじゃないかと想像するんですが、違いますか?
(Hさん):そうです、見ると…「やる気」がないと……思っています、はい。
(私):人をそう見てしまったら、もうそれで終りです。その時に “勝負” が決まっているんですよ。問題は対象側に行ってしまうんですから。
  そう言うあなたには「やる気」が有るんですか?
(Hさん):(1、2分の沈黙の後)自信を持って有るとは言えません。
(私):そうすると、あなたの質問は矛盾していますね。俺と同じような者をどうしたらよいかということになります。
  でしたら、自分はどうあったらよいかを考えたら、自ずと回答が出るんじゃないですか?
  僕は「やる気」がない人間というのはいないと思っているんです。
  古い話ですけれども、何冊めかの本の序文に書いたんです。ある中企業、2000人くらいの会社のCEOとの会話です。「うちには『やる気』がないのが揃っている」とおっしゃるんです。それを聞いた僕は、「その人たちは遊びではどうですか?」って問うたんです。「いや、マージャンか何かをやらしたらはりきる」って言うんですよ。「じゃぁ、『やる気』があるじゃないですか」って。
  「やる気」がないのは病人だけです。「うつ病」になったらそうなるんだそうです。仕事にも遊びにも何も彼にも「やる気」が無くなってしまう。
  今、指折りの精神科医と対談しているので、ちょっと詳しくなったんですよ。多くの企業の中で今「うつ」と診断されているのは、「うつ病」かどうかあやしいんだそうです。で、僕はそれに、乱暴にも“うつもどき”って名前くっつけているんです。
  「やる気」を、遊びでは出すけど仕事だと出さない、こういうのが今の企業の中で発生している。
  人間はみんな「やる気」を持っている。その裏側には「やらないで済ます気」が潜んでいる。この二つの「気」が、自分の中で “綱引き” をやっている。その “綱引き” では、後者の力のほうが強い。それではいけないとわかっていながら。それはダメ人間のものではない。それこそが人間というものの、日常の自然な姿ではないか。――事あるごとに私が口にするフレーズです。もちろん私自身も、それにおいては人後に落ちません。
  この人間観さえ意識化できれば、リーダーのミッション、マネジメントの核心が見えてきます。その核心とは、「やる気」への応援=「やらないで済ます気」を許さない「外力」を指します。その外力とは、私の著作のいずれも記してあります。
  最後にひと言つけ加えます。申すまでもないことですが、「やらないで済ます気」に流されていたら、仕事もおぼつかないし、その人の人生も台無しになってしまいます。

  「組革研」に現れる以上のような「人びとの企業内での日常」、これは一部の人のものではないようです。げんに上記の総ては、チーム内で共感されて発表されたものであります。
  かつては世界で1、2位を競ったこの国企業の労働生産性は今や先進国では下位。それなのに「働き方改革」では、労働の「量」ばかりを騒ぎ立ててその「質」は完全無視です。私は呆れ果てているのですが、マネジメント=「管理」の下では当然のことかもしれません。

19.9.23. 

藤田英夫 

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