組革研をよく知るマスコミのプロデューサー兼ライターから、下の図を持ち込まれた。
「共感領域」とは、「うつ病」に代表されるような人びとのメンタルヘルス不調を生み出していく 「犯人の正体」を指している。 この共感領域をめぐっての二人の対談を出版しようというアイディアだという。
私は医者ではないので精神疾患について軽々しく云々する立場にはない。 しかしかねがね、精神科医が仕事の負荷によるストレスをその起因と断じ、それに滅入っている人びとを、いとも容易にとでも言いたくなるほどさらりと「うつ」押印してしまっているらしき実態、これには大きな疑問を抱いていた。
たしかに我われ人間は、重荷を背負わざるをえなくなればストレスは増してくる。 しかし、それが 「うつ」の起因だというのでは説明のつかないことがそこら中にある。 大きな例でいえば、8年まえの東日本大震災の被災者の方がたの状況をどう説明するのか? 家を失い、仕事を失い、さらには家族さえ行方不明あるいは失った人もいる。 それでも何とかして生きていかなければならない。 言語につくせぬ重荷、そのストレスは底無しであろう。 この人たちはみんな 「うつ」になってしまったのか。違うではないか。
私には、 「うつ」の起因は己の存在感の喪失、生きている手応えを実感できなくなることにあるように思えてならない。 私の研究テーマの視点からも我が身を以っての体験からもである。
我われ人間が生きていくということは、次から次へと問題にぶつかり、それらを背負って乗り越えていくということだ。 意図せずして自ら問題を生み出していくことでもある。 仕事ともなればその連続であろう。 我われは四六時中、 「問題と共生」しているのではないか。人間世界はそうできているのだ。 その負荷によるストレスで 「うつ」になってしまうのなら、真面な人間はみんな 「うつ状態」になってしまうではないか。 個人差はあるにしてもである。
私はかつて以上のようなことを書いたことがある。 「医者ではないので、事このことに関しては信用しないで」と断ってのうえで。 それを読んだ大企業の製造現場の一人は課長一人は課長補佐の立場にあって、いずれも 「うつ病」の “烙印” を押されて強制休職させられたお二人からメールをもらった。 その内容は前記への強烈な共感であって、一人のそれには 「医師ではない 『私の言』と言われますが、下手な医者の理屈よりも的を射ていると思えてなりません」と記されていた。
𠮷野聡医師。 私は存じなかったが、精神科の産業医として新進気鋭の指導的立場にある方らしい。 私との 「共感領域」は対談によって明解になることだが、それに先立って医師の著書※を読んだ。 その中のごくごく一部を引用して下記するので、同医師と私との 「共感領域」を察していただければありがたい。
・「多くの職場で取り組まれているメンタルヘルス対策の根本的な考え方が誤っている。」
・「これまでのメンタルヘルス対策の最大の問題点は、 「ストレス低減」(労働時間を減らし、責任を軽減し、精神的負荷を和らげる)にその主眼が置かれてきたこと。」
・「ストレスは 『悪者』ではなく、適度なストレスはパフォーマンスを向上させる。」
・「労働者が生き生きと働ける職場をつくり、社員が自らの成長を実感しながらモチベーションを高く維持し、良好なパフォーマンスを発揮できる職場環境づくり。 それこそがメンタルヘルス対策の真髄。」
・「パフォーマンス向上のための適切な人材育成やストレスマネジメントが成されない中で、 『残業は減らせ。 でも仕事のアウトプットは落とすな』とだけ言われる日本の労働者が、メンタルヘルス不調をきたすのも当然。」
・「人は困難な状況を乗り越えてこそ成長する。」
・「叱る場面こそ、前向きで合理的な信念を持てる人材を育て上げられるかどうかの分水嶺。」
・「部下の考えと能力を引き出す人材マネジメントが必要。」
この対談が上梓されるのは数か月後になると予想している。 その途上で、その中味のエッセンスをこのコラムで紹介できればと心積もりしております。
※ 『「現代型うつ」はサボりなのか』(2013年平凡社刊)
『「職場のメンタルヘルス」を強化する』(2016年ダイヤモンド社刊)
19.2.12.
藤田英夫
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