キャンパスリーダーの独り事

「普通」 の人によるリーダー変革のドラマ・1  No.160

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  リーダーの変革によって、劇的に人と仕事を見事に甦らせたドラマの一つを、今週からこのコラムの数回を費やして連載する。

  「部下と真正面から向き合い、易きに流れるのを許さない」
  私が組革研のリーダーに強くトップダウンするのは二つ、中でも迫るのが上記である。
  なぜか。
  部下は 「人間」 だからである。 常日頃、ついつい易きに流れていくのが人間の無為の姿であろう。 私もその一人だ。
  我われが日々何かをどうにかこうにかなしえているのは、そうしなければ済まされないという外からの力の作用、即ち強制の力が働いているからである。 もっと踏み込んで言えば、強制作用のお蔭だということになる。
  「強制イコール悪」 が世上の超常識となっているのだが、それは、人間の実体を見ることのできない、ある種の観念に憑かれた思考停止人間故のものだと思う。
  「人を道具として」 の強制、即ち強制する側の都合や論理による強制が悪なのであって、それこそが排除されるべきものなのだ。
  「人を人として」 の強制作用なくしては、普通の人間としての我われは易きに流れていく。 やらずともよい理由、できない理由を見つけるのは、誰もが素早いし、上手だ。 理くつはこれには大いに役立つ。 そうして我われは、自分自身をも納得させ、立派でありたいという己の願いとは反対の方向への動きをやってのける。 やれるのに、やらないのだ。 己の “生産的” 欲求は己の “消費的” 欲求にしてやられてしまうわけである。
  体を動かす必要をよくよく理解していながら、階段を避けてエレベーターを待つ。 そのほうが楽だから。 では、エレベーターの無いところではどうするか。 平然として階段を昇る。 そうすることを “強制” されるからである。
  日々、こんな些細なことでさえある種の強制作用を受けて動いているのだとすれば、己の 「人間力」 を眠りから覚まさせて発芽させていくには、より強い強制作用が必要だということになる。
  強制作用の源泉には、二つがある。 一つは、問題だらけの生々しい 「状況」、じっとしていては済まされない、自分が困る状況がそれだ。 もう一つが、易きに流れるのを許さないリーダーという 「人間」 の存在である。
  以上は前置き、ここから本題に入る。

  話しの主は、大手の自動車販売会社・F社のKさんである。 彼は当時55歳、どこにでも居そうないわゆる 「普通」 の人である。 ただ、組革研には10回ちかくも 「リーダー参加」 を重ねている。
  赤裸々に記すがために、登場人物の全ての名はふせておく。
  KがM営業所長に着任したのは1989年の10月。 そこは15年もの間にわたって、ワースト1の営業所となっていた。 立地条件が悪い、建物が古い、天井が低いなど、言い訳材料に事欠くこともなかった。 もちろんここに配属を望む者はなく、何とはなしにセールスマンに職種転換し、希望営業所を聞かれても 「別にぃ、どこでもいいすよ」 などと言うような人たちの、いつの間にか吹き溜まりとなっていた。
  一方のK、それ以前に二つの営業所長を歴任して業績をあげ、 「M営業所を俺にまかせてみろ」 と意気軒昂、辞令に対する周囲の同情などどこ吹く風であった。
  さてKの初日。 彼はこの種の誰もがやるように、一番乗りでM営業所に立っていた。 出社してくる一人ひとりに大声で挨拶しようとして。
  ところがである。 誰一人として挨拶を返してはこない。 直販課長Sの 「よろしく」 だけが唯一。 掃除をする気配もない。 女子事務員だけがおざなりに自分の机の上を拭いている。 ソファに座ってスポーツ紙で顔を隠している者、屋外の部品庫や洗車場の屋根の下辺りには数人ずつがたむろしている。 新任所長には誰一人、近づいてこようとはしない。
  ミーティングを始めても、誰も口を開かない。 いたしかたなくKは、自分の思いを話してみた。 しかし、セールスマンたちは下を向いたまま、目線すら動かさない。 黒板を使ってもみたが同じ。隣どうしの目配せやぼそぼそ話もない。 事務の女性に話しかけても、返ってくるのは無表情の生返事だけ。
  その空気は、招かれざる客を覚悟していた彼の想像をはるかに超えたものであった。
  人びとがこうとあっては、他は推して知るべし。 建物の中は汚なく、暗い。 窓枠には黒いものがかさぶたのように張り付いている。 ショールームの段々式の状差しから宣伝用の冊子を取り出してみると、陽焼けで上下で色が変わっている。 業績の真赤々は語るに及ばず。
  [来週に続く]
  ( 『人間力』 第七章六、 『人を人として』 第五章二より抜粋、少し加筆)

16.9.26.

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