前週に続いて、その具体的かつ素朴な一例を紹介する。 旭化成でのことであって、組革研体験豊かな片山末藏さん (同社アセテート工場管理室長・当時) によるものである。
出荷のための自動包装機の故障に、女性オペレーターの人たちが振り回される状態が3年間、来る日も来る日もくり返されていた。 資料を頼りにした管理者の会議ではこの状態は解決できないと見た片山さんのアイディアは、荷札を包装機の故障箇所に括り付けることであった。 オペレーター側で調整した場合にはオペレーターが、保全側が手を加えた場合には保全担当が。
時と共に荷札が増えていく。 社寺でおみくじを引いた参拝者はそれを木の枝に結び付ける。 結びやすいところには数多く、そんな枝は白く盛り上がって目立つ。 それと同じ、くり返される故障箇所は一目瞭然。 説明は一切必要としない。
やがて、オペレーターが保全担当に 「どうしてここが故障したの」 とか 「どこが悪かったのよ」 とか聞くようになってきた。 保全担当は 「ここやー」 と答える。 「なぜそこが故障したの? 」、 「おまえたちが乱暴に扱うからや」、 「そうか、そうでもないがなぁ」 と、使う人と修理する人とのやりとりが始まりだした。 そうこうやっているうちに彼女たちには、自分があのときああやったからやなぁとか、どんな操作をした場合にどこに故障が起きたかとか、故障の原因らしきが思い当ってくる。 自分が故障を起こさせたときのようなやりかたを仲間がしていると、 「あっ、あかん」 と注意するようになった。
オペレーターには、作業面での改善点もわかりだしてきた。 保全担当に、そのときの状況を説明できるようになってきた。 保全担当のほうも、そういう作業に耐えるための改善修理はどうしたらよいか、と考えるようになってきた。
日に2、3回も現場に呼び出されていたのが一日おき二日おきとなった保全担当には、余裕ができてきた。 改善の時間もとれるようになった。 オペレーターのほうも、定時までに包装が終わるようになり、残業せずともよくなってきた。 1か月もすると、作業は定時に確実に終わるようになった。
機械が拭きあげられ、周囲も明るくなった。 「きれいになったねぇ」 と片山さんが声をかけると、彼女たちはにっこりとして、 「時間に余裕ができたので、掃除したの」 と応える。 現場がきれいになりだすと、物の置き場所や置きかたにまで工夫がされてきた。
オペレーター対保全担当の意志疎通もよくなり、ともに成果を味わうこととなった。
状況の 「間接化」 から 「直結化」 への転換によって、人びとの 「人間力」 はその鎌首を上げ、人びとは緩やかに 「やらされる」 から 「やる」 へと変じていくことができるのである。
終わりにひと言。
リーダーは “上横下” の四方八方と向きあい、ときには闘わねばならない。 そのときの身方はいずれか。 “上横” に対しては 「部下」。 “下” に対しては問題だらけの 「状況」 がそれである。
( 『人間力』 第六章三より抜粋、少し加筆)
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