権限を与えて徹底的に追い込む。 檄をとばす。 鉄拳をくらわす。 それでいて従業員からは 「おやじ」 と呼ばれて慕われていた。 「私が怒鳴ってばかりの間に、こんなにみんな立派になった。 怒鳴りがいがあったなぁ」 と、本田さんご自身が 「ＨＯＮＤＡ３５周年イベント」 で語っておられる*1。

　 だんなさん、こんなことがございましたね。
　 「明日、お客様にお出しする黒豆を作れ」 と言われ、初めて灰汁戻しで黒豆を作りました。 翌日の昼、 「田中君、黒豆持って来て」 と言われ、容器ごとお渡ししました。
　 そのふたを開けるなり、 「田中君、わしは料理を４７年間やっているが、こんなしわの寄った豆を見たのは初めてや。 君は大阪で何してたんや。 君のいた店はこんな仕事してたんか」 と繰り返し言われたのです。 大勢の同僚の前でしたので、恥ずかしいやら悲しいやら、穴があったら逃げ込みたい思いでした。
　 その後、夜までの休憩時間、失敗した黒豆を前に、じーっと見つめながら考えました。 ここまで言われたのだから、荷物をまとめて帰ろうか、と真剣に覚悟を決めました。 しかし、しわの寄った黒豆を何とかしなければ笑い者になってしまうと思い、手順のどこが悪いか、最初から頭の中で思い返しているうちに、反対にやってはと思いつき早速やってみたのです。 何と成功したのです。 しわが伸びたのでした。
　 だんなさん、覚えていらっしゃいますか。 夜のお客様の時、 「しわの寄った豆持って来い」 と言われ、 「ハイッ」 とお出ししたところ、こうおっしゃいましたね。 「わしは４７年間料理やってるが、しわの寄った豆、しわが戻ったの初めてや」。
　 お蔭様です。