前週に続いて『「状況」が人を動かす』について記してみたい。
ジェームス三木さん(作家)から、おもしろい話しを聞いたことがある。記憶をたどって記してみるとこうだ。
テレビのドラマに、しゃかりきで逃げる泥棒とその後をふうふうと息を切らせて追いかけるお巡りさん、こんなシーンが出てくる。見ている人たちは泥棒とお巡りさんのどちらを応援するか、というのである。実際に試してみると、子どもの場合は例外なくお巡りさん、大人の場合はひとひねりしてか泥棒と答える。だがそれには、根拠があるわけではない。ところが、これは自明のことなのだそうだ。その鍵はそのシーンの前にあるのであって、それまでのドラマの流れが泥棒とお巡りさんのいずれの生活を描いてきたかできれいに分かれる、というのである。
つまり我われ人間は、意識することもなくいつの間にか、自分が身近に感じる状況に身を寄せる、ということである。仮想現実の状況においてさえである。いわんや我が身をおく本ものの状況においてをやだ。
仕事の状況は、たえず変化し、いろいろな問題を潜在させてその姿を現わしてくる。思ったようにいっていることもある一方、それ以上にうまくいっていないことが多々起きている。
その思ったとおりにはいってはいない、問題だらけの生々しい状況、それは嫌なものだけれど、それこそが、人びとに迫ってそれとの相互作用を促し、人間として生きていくことにとっての願ってもない起こりなのである。これこそが、人びとの「人間力」を誘い出す、あるいはその発揮を強制する “神” とでも言うべきほどの力を持った存在なのである。
この状況から「強制」されるということが、得も言われぬほど素晴しいのだ。それは、人間によるそれとは異なり、作意のない、自然発生したかのような力であって、それが当事者に受容的作用をもたらせ、拒む反作用を起こさせにくくしていくからである。それはまた、言い訳のできない “相手” でもあるわけだ。
強制と言っただけで、反射的に拒絶反応の “発作” を起こす人がいるかもしれない。強制うんぬんについてはこの書の第七章でふれ、第一〇章にてさらに補足している。
(『人間力』第六章一より抜粋、少し加筆)
訂正とお詫び
先週のこのコラムに誤植がありました。野地彦旬さんが横浜ゴムの社長に就任されたのは、正しくは2011年です。ここに訂正します。すみませんでした。
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改めて更新を再開する予定ですので、少々お待ち下さいませ。
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