「わからないこと」が技術伝承に繋がった

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　１年前、現在の職場に異動してくると、ある計測機の製造工程が目につきました。仕掛り品があちこちに置いてあり、手順書どおりに作業がすすめられていないようでした。その工程は定年間近のベテラン作業者が一人で担当していました。彼は手順書とは異なった独自のやりかたですすめており、仕掛り品が散在しているように見えたのもそのせいでした。
　彼の動きを見ていても、何をどうしているのか全くわかりません。彼がいなくなったら製品ができなくなると危機感を抱き、後任として女性作業者に引き継がせることにしました。しかし、何から何まで彼の指示で動くしかなく、引き継ぎは一向にすすみませんでした。
　そんなときに参加した組革研では、対象を明らかにするためにわからないことを書き出すことから始め、それを貼り出して議論し調べました。「これだ！」と思いました。
　職場に戻り、ベテラン作業者のすすめかたがどうなっているかを明らかにしようと、彼女にわからないことを書き出させました。最初は３０件くらいでしたが、それに彼が答え、わかってくるとさらに疑問が増えて１００件を超えました。
　わからないことを明らかにする中で、自分勝手に思えた彼のすすめかたが手順書より合理的だとわかり驚きました。そして、彼の話をもとに彼女に新たな手順書を作らせ、製造工程も手直ししました。
　それを境に彼女は自分で判断して動けるようになりました。最近では作業の効率化を提案するようにもなり、彼も協力しています。
　定年間近の彼にも少しずつ変化が現れ、先日は、これまで在庫管理のために生じていた非効率作業を自ら改善しました。