一向に治まろうとはしないコロナウイルス禍に、さぞかしご不自由をなさっていることとお察しします。「組革研」もとよりその延長上のミーティングも総て臨時休会せざるをえなくなってから、はや一年半が過ぎてしまいました。
来る11月ごろからは再開できることを期待しつつ、私は今、引籠り生活に甘えているところです。
それも一年半も続けてますと、非読書家の私も、さすがに本を手にするようになります。その中からここで触れるのは『人新世の「資本論」』という本です。著者は斎藤幸平さん、経済思想、社会思想を専門とする大阪市立大学准教授という新進気鋭の学者です。書籍不況の中で30万部も売れているという単細胞な動機から手にしました。
訳わからぬ書名をがまんして数ページをめくりますと、待ってましたとばかりにこんな記述が出てくるのです。
私の思想と瓜二つ、学者もやっと気がついてくれたか、全く同じではないか、とすっかり気を良くして字面を追い続けました。人間の有り様と自然の有り様というこの二つこそが、大仰に表現すれば人類の近未来への最大問題だと考えるからです。
ところが読みすすんでいくうちに、私のおっちょこちょいぶりを象徴するかのように、「学者もやっと……」は雲散霧消していくことになってしまうのです。
「自然」云々に関しては、斎藤さんの論と私のそれはまあ同じです。たった今も目の前のテレビには、熱海の伊豆山近辺の建物が何十軒も大雨による土石流に根刮ぎ薙ぎ倒されて流されていく様を映し出し、数十人の行方不明者を心配する姿を見せております。2、3日まえにはカナダ西部での気温は49.6度、と言えば50度じゃないですか、それによる死者数百人を伝えておりました。
ところが「人間」云々となると、ことは一変してしまいます。斎藤さん言うところの「人間を道具として」は、相変わらずの「搾取」論内の話しではありませんか。
今日、労働力を意図して人びとから搾取しようとする企業家など、いかほどいるでしょうか。ゼロとは言いませんが。あるいは真面(まとも)な人でも、人間故についついそのような気になるときもあるかもしれませんが。ほとんどの企業家は、仕事をするのは一人ひとりの人間であることを意識し、人を大事にし、人を育てようとしています。
私は「労働力」なる言葉をめったに使いません。現実離れしているからです。「仕事力」と言います。「仕事に行く」とは言いますが「労働に行く」と言う人はいませんよね。「労働力」は「仕事力」のごくごく偏った一部でしかないのです。
即、世にいうところの「労働の搾取」と私の申す「人を道具として」は、完全に次元の異なる話しなのです。
次元がどう異なるのか。ここでは最重要な一点のみに留めます。
「搾取」は、それそのものを意識し、意図して行うことでしょう。私が主張してやまない「人を道具にして」は、「人を大事に」「人を育てる」ことを意識し、意図して行っているマネジメントの実態とその結果が、「人を道具にして」になってしまっているということなのです。人を大事にし、人を育てているつもりで行っていることそのものが、その意識・意図とは真逆になっているのだということです。
学者、ジャーナリストはもとより、このことに気づいている経営者、リーダーはいかほどおられるでしょうか。1パーセントを超えるとは思えません。
私がカール・マルクスを再認識(おかしなところを含めた)する一文がこの書に紹介されていましたので、それを再紹介してこのコラムを終えます。
只今、サイトの更新を一時停止しております。
改めて更新を再開する予定ですので、少々お待ち下さいませ。
どうぞ宜しくお願い致します。
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