世は困った問題だらけだが、私が今どうにも気がかりでならないのは二つの巨大問題だ。途轍もなく末恐ろしい。一つは気象の変動、一つは人びとの「気」の変動である。前者は荒れ狂う凄まじさ、後者は沈化への凄まじさ。動と沈という方向こそ逆だが、前者は地球の悲鳴、後者は人間の悲鳴であるかのように私には映ってならない。自然破壊と人間破壊とでも言いたい。
この世の多くのリーダーたちは、この二つの事の起こりには手をこまねいて対症療法に始終している、というのが実態なのではなかろうか。途轍もなく恐ろしいと申す理由はここにある。このままでいけば、この二つはおそらく激化の一途、この世はどうなってしまうのであろうか。
「異常気象」だと気象庁の予報官までが言う。自然現象に異常など無い。自然現象は自然の法則、摂理に従って「状況」に正常反応しているのである。その「状況」を作り出しているのは我われ人間であって、それが自分たちにとっては異常に映るということだ。
その正常反応に自分たちは今、困っている。
人びとの「気」の沈化という人間現象、人間の法則、摂理に従って「状況」に正常反応しているのである。その「状況」を作り出しているのは我われ人間であって、私が最近よく使う言葉にすげ替えれば、社会が人びとをそのように“初期設定”しているということである。
その正常反応に我われは今、手を焼いている。
わかっていながら、問題解決への至難さからかそこから逃げているらしいのが、気象の変動への対応である。
スウェーデンの17歳のグレタ・トゥーンベリさんは、諸処の国際舞台で「全ての生態系が破壊されています。私たちは大量絶滅の始まりにいます。それなのにあなたたちが話しているのは、お金のことと、経済発展がいつまでも続くというお伽話ばかり。恥ずかしくないんでしょうか!」と絶叫している。これに対して、トランプ大統領は「とても幸せな少女」だと皮肉り、プーチン大統領は「優しいが情報に乏しい若者」と言って退け、ブラジルのボルソナーロ大統領にいたっては「マスコミがあんな餓鬼にこれだけ注目しすぎだ」と切り捨てた。我が国の小泉大臣による国際舞台での発言も、各国をがっかりさせるに終始した。
たった今もオーストラリアでは荒れ狂う気象に喘いでいるというのに。火災で日本の領土の半分の森林をも一挙に消失、一方では洪水、砂嵐が辺りをのみ込んで闇にし、他方では雹。
こんな現実を目の前にしながらも。
わかってもいなければ、どこまでも対症療法で問題解決を試みているのが、人びとの「気」の変動への対応である。
おかげさまで「組革研」は来年、創設50周年を迎える。毎会期の参加者の平均年令は41、42、43歳。ということは、私はこの人たちの「気」の変動を50年ちかくにわたって自ずと観察してきたことになる。ここでつくづくと感じるものの最大のものが、人びとの「気」の沈化である。「気」とは「万物が生ずる根元。生命の原動力となる勢い」と『広辞苑』にある。その人びとの「気」がこの約50年の間に半分以下になってしまった、と私は断言してはばからない。私のこの見かたが間違っていれば幸いだが……。
人びとをそのようにさせているものこそが、この世を覆っている「人を道具として」を拠りどころとする「管理」意識だ、とこれまた断言したい。
人間を管理してしまったから人びとの「気」は沈んでいく。それは人間の条件反射、状況への正常反応である。企業内で言えば、人びとの「気」が沈化しては仕事にならないので、マネジメントは管理強化にはしる。人びとのさらなる「気」の沈化。この悪循環の中に企業は今おかれているのではないか。
この二つの巨大問題からの脱出は可能だと確信したい。と言っても気象変動については私の手には負えない。人びとの「気」沈化については私の自負するところなので、ここでは企業内でのそれに限って、ひと言だけ記しておきたい。
それは「人・仕事関係」、即ち人びとと仕事との関わりかたの変革に尽きる。その質を変えるということだ。いくら仕組み・制度を変えてもどんな手法を導入しても、それは上っ面を撫でるだけに終わる。「人・仕事関係」を支配する鍵はリーダーによるマネジメントにあるのだ。リーダーのマネジメント革新には1円たりとかからない。企業内のマネジメント革新による人びとの「気」のレベルアップの実態※については「組革研」に詳しい。
ついでに申す。「『働き方改革』はちゃんちゃらおかしい」と、私はあるマスコミに書いた。森羅万象は量と質の相互依存関係で成立している。にもかかわらず「働き方改革」では「質」をいっさい問うていないからである。
この社会には優れた人たちはいる。企業経営者、学者、ジャーナリスト。にもかかわらず、誰一人としてこの質を問題にしていないのはどういうことだろうか。
20.1.27.
藤 田 英 夫
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