キャンパスリーダーの独り事

なんで誰もが、労働の「質」を問わないのか
――「働き方改革」がちゃんちゃらおかしい  No.216

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  「働き方改革」法がいよいよこの4月から施行される。 私はこの法案をめぐる各界での議論について、マスコミ※1で 「ちゃんちゃらおかしい」と断じた。
  それは二つの点においてだ。 第一は、働く「量」だけを課題とし、その中味である「質」については完全に不問だからである。 そこには仕事観の欠片もない。 我が国にも優れた頭脳の持ち主は少なくないと思う。 経営者、学者、ジャーナリスト。 なんでその誰もが、こんなにも根本的かつ当りまえのことに気づかないのであろうか。 第二は、どう見ても 「改革」だとは言えないからである。 ひょっとすると世のインテリには 「改革」と「改善」の区別が無いのではないかと思えてくる。 改革と改善は似て非なるものではないのか。
  第一と第二は連関していることであろうが、今回のこのコラムでは第一のみについて記していく。


  森羅万象とまでは言えぬが、この世の有り触れるものには 「量と質」が共に存在する。 働く、即ち 「労働」にも両者が共存することは明々白々だ。 その質は、理くつ上では働く人の数だけ有りうるのかもしれぬが、大胆に二分すれば、仕事の 「主」となっているか 「道具」となっているかに尽きる。 私が創唱した言葉で言えば、己の 「人間力」で働いているか 「道具力」で働いているかということだ。
  多くの企業の中は、 「人を大事に」 「人を育てる」と言いながら、それを具現化するはずのマネジメントはその願いとは逆行、 「人を(仕事の)道具」としてしまっているではないか。 それこそが人びとの労働の質をどこまでも悪化させていることに、とんと気づかないらしくである。


  「働き方改革」法は労働時間量を少なくする方向に作用する。 他方、仕事課題は少なくなるとは考えられない。 この相克を突破して両立させうる途はただ一つ、 「労働生産性」を上げる以外にはない。 これまた私が創唱した言葉で言えば、人びとの 「仕事力」を上げる以外にはないということだ。 それが実現できなければ、下手をすれば、労働純度の 「人を道具として」化が強まる一方になるだけだ。 そうなったら企業の中はどうなるか。 人びとは人性を喪失し、 「メンタル疾患・うつ状態」続出の心配はないか。
  企業は今後、人びとの 「仕事力」upにいかに取り組んでいくつもりか。 その策はあるのか。 「働き方改革」担当役員なるものを配している企業もあるらしいが、いったい何を演じようとしているのか。 政府が謳うところの 「生産性革命」なるものも、その中味は何とも心許ない。
  企業内の人びとの体質、 「その気」と 「意識」の革新なくしては、労働時間量downと仕事力upの両立はありえない。 この課題こそが、リーダーとそのマネジメントの使命であろう。
  一昨年秋の 「組革研500回会期」を機に、私は 「脱・三逆リーダー」を提唱した。 その翌年、組革研参加者に対する企業内でのその実践結果の実態調査が行われた。 それによれば、 「三逆」の一つから脱け出しただけでも、部下たちの 「仕事力」は1.5倍、2倍となっている。 もちろん1銭も使わずにだ。 厚労省のいんちきデータとは違うので、詳しくは同名の拙著※2を見てほしい。


  拙著を読んだある労働組合からつい先日、講演依頼があった。私の関心テーマは労組活動には縁が薄いので立ち所に断ろうと思ったのだが、待てよと考えた。多くのリーダーが「三逆」になってしまうのは、その対象である部下たちのニーズにもその起因があると思い至ったからである。そこで引き受けた。従業員1万数千人の企業。ユニオンショップの労組なのでほとんどは組合員であって、委員長以下全役員が集まっての会である。
  私の予想は見事にはずれて、ほとんどの人たちが実によく、上記の話しに耳をそばだててくれた。後に知るところによると、この話しに共感した人が実に多かったそうだ。


  もう一度繰り返し記しておきたい。 優れた経営者、学者やジャーナリストがいるのに、 「労働の質」という、人間にとって、国家にとって、経済にとって、企業にとって、このあまりにも本質的、基本的、当りまえの身近な課題の存在に、どうして誰もが気づかないのであろうか。

※1 『ダイヤモンドオンライン』2018年6月6日「本気で生産性を上げたいリーダーが『止める』べき3つのこと」
※2 『脱「三逆リーダー」』(2018年ダイヤモンド社刊)

19.1.27.  

藤田英夫 

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脱・「三逆リーダー」
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