キャンパスリーダーの独り事

おかしな・・・・常識」に挑み続ける勇気
――西澤先生からいただいたもの・その1  No.214

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  「眞理はすべて 実驗室にありて 机の上には在ず」 ―先日(10月21日)亡くなられた西澤潤一先生、その 「追悼の会」の式次第パンフをお写真と共に飾ったのは先生筆のこの色紙であった。
  組革研の会期で私は、先生のことを度々小話させていただいている。 だが今日、先生の名を知る人は限られているので、ちょっと紹介しておかねばならない。 光通信や半導体の分野での世界的な発見・発明は数多く、文学界での村上春樹ではないが、ノーベル賞に毎年のようにノミネートされていた、と言えばその業績は誰もが想像できるのではなかろうか。 元・東北大学総長。
  私は先生に近しいわけではなかった。 だが先生は、拙著の推せん者になってくださった。 教育をテーマとするシンポジウムではパネルメンバーとして同席させていただいた。 そのほかには数度お目にかからせていただいた程度である。 にもかかわらず私の心の中では、先生は我が師となっている。 大事なものをいただいた気がしてならないからだ。 大事なものとは、それこそ “光” を求めて「おかしな・・・・常識」に挑み続ける勇気を指している。
  その中から二つの事例をめぐって、組革研の有り様に関連づけてみたい。
  今号はその1、先生の著作※1からの引用、光通信技術の開発途上での余話である。

  昭和41年、川上君(助手)が電子通信学会で研究発表をしたときのことだ。 発表のあと、ある研究所の研究者が立ち上がって質問をしてきた。 彼は、顔から眼鏡をはずし、それを振りかざして語気鋭く言い放ったものである。
  「あんたはなんということをいうのか。 この厚さ1ミリの眼鏡のレンズを通してさえ、向こうを見るといくらか暗くなる。 30センチのガラスを通して向こうを見ると、真っ暗でなにも見えやしない。 ましてや何十キロものガラスの糸のなかを光が届くはずがない。 そんなものを通して通信しようなんて……」
 会場は哄笑の渦と化した。その質問者は「愚の骨頂、笑止千万」という言葉を呑み込んだのだろう。
 (中略)とまれ、学会の反応は、くだんの質問者に代表されるものであった。 「そんなバカな。 できるはずがない」、というすこぶる冷たい雰囲気であった。

  先生が、打ち重なる「おかしな・・・・常識」との闘いの末、とうとう世界的な発見・発明を成し遂げてしまったことは、今日の光通信技術の実態を見れば明らかであろう。

  きわめて近しかった我が師・小林茂先生についても、念のため紹介しておく。 ソニーと言えば、かつては日本の代名詞がごとき存在であった。 その頃の同社常務取締役。 氏による同社厚木工場の大改革のドラマは、多くの経営者たちに変革意識を沸き起こし、理念はさておき、その具体策の影響を受けなかった企業はないと言われるほど、一時期の日本企業に一大センセーションを巻き起こした。 そのドラマは英語版『CREATIVE MANAGEMENT※2となって米国でも刊行され、世界に向けての日本のマネジメントの輸出第1号ともなったのであった。
  その氏が事あるごとに口にしていたのが、 「私は、経営学やマネジメントの常識とは、正反対のことばかりやってきた」であった。 小林先生もまた、 「おかしな・・・・常識」に8年間にわたって挑み続けた末に、とうとう世界レベルのマネジメント改革を世界に見せることとなったのである。 残念ながらノーベル賞にはマネジメント分野はない。

  「組革研」を一言に断じれば、労働生産性と人の成長を同調左右する 「人・仕事関係」、それを支配するリーダーの有り様の 「おかしな・・・・常識」への 「挑み」につきる。 その一例が、一昨年の 「組革研500回記念」を期に提唱した 「脱・三逆リーダー」※3である。
  「三逆」において最も表立って、圧倒的な量をなしているのは、部下に対する 「教える、指示する、世話をやく」である。 企業の中は、それがマネジメントだと思っている人ばかりであろう。 「それを止めたらリーダーは何をやるんだ」と広言して憚らない人までがいる。
  世のリーダーの多くは、そうしないと部下は仕事をすすめられないと思い込んでしまっているのではないか。 だとすると前記の、西澤先生のお弟子さんの発表に対する学会の反応と、瓜二つだ。
  なんというこの「おかしな・・・・常識」。 それこそが、人びとをして主体的、創造的にさせない、 「人間力」をフリーズさせてしまう方法だということに、とんと思い至らないのであろうか。まさに人びとの 「ロボット症」づくりだ。 これでは、部下の本当の力はけっして出ない。 その挙句の果ては、部下がやるべきことを肩代わりしてしまうリーダーさえいるではないか。 その結果としては、生産性がおぼつかないのは当りまえだ。
  「教、指、世」から脱け出て労働生産性を、部下の仕事力を1.5倍、2倍、2.5倍にしたリーダーたちが、少なからずいるのです※3。 この現実を見てください。
  「常識」が総ておかしい・・・・と言っているのではありません。 この社会には「おかしな・・・・常識」が少なくない、しかもそれが、掟がごとき強大な力を持って重要なところに巣くっている、と申したいのです。
  「改革」の原点は 「常識」への疑いではありませんか。

※1 西澤潤一著『独創は闘いにあり』(1986年、プレジデント社刊)
※2 小林茂著『CREATIVE MANAGEMENT』(1971年、American Management Association, Inc.刊)
※3 拙著『脱「三逆リーダー」』(2018年、ダイヤモンド社刊)
   このほかに、「組革研」事務局のマネジメントセンターには数々のデータが集まっている。

18.12.25.  

藤田英夫 

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脱・「三逆リーダー」
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