キャンパスリーダーの独り事

リーダーの「引き算」そして「足し算」  No.212

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  「指示待ち」「他人事意識」は、今日の人びとの「体質」を表徴する現象であろう。 その「体質」は、本人の意識・意図によるものではなく、おかれていた環境下によって、何時の間にか “初期設定” されたものだ。 多くの人びとが「非主体化に “初期設定” されてしまっている」→「困ることだらけの仕事の中でこそ、そんな “初期設定” を革新して再 “設定” していくことができるのではないか」
――というのが、このコラムの前号の要点であった。
  この号は、それをどうすすめるかである。
  記すまでもなくそれは、一にリーダーの有り様にかかっている。 その「中枢」は、マネジメントの “引き算” と “足し算” にある。
  この「引き足し」、これこそがリーダーの本来の役割であることも、ここで特記しておきたい。
  “初期設定” はマネジメントによって為されていく。 家庭内でも学校内でも、その形式はともあれ、そうと意識することなくマネジメントが行われているのだ。

  「引き足し」は、何はともあれ “引き算” から始めるのがよいようだ。
もちろん、それによって部下は戸惑いを見せる。 だがそれは一時のことだ。 その一時は “初期設定” の度合いに左右される。
  その “引き算” を図解したのが下の「三逆リーダー」図である。 これについては拙著の『脱「三逆リーダー」』※1に詳しい。

「三逆リーダー」図.jpg
  ほとんどのリーダーが「三逆」に、これまた “初期設定” されていて、企業内はその連鎖組織になってしまっているようだ。
  そこまで私が断言したくなる根拠は、 「組革研」に「リーダー参加」する企業人リーダーの実態にある。 98パーセントのリーダーが、「人間として部下に真正面から向き合う」ことなく、それどころか「三逆」へと盲進して行くのである。 まさにそのオンパレードだ。 知的レベルの高い人たちだから、脱「三逆」の必要性はよく理解する。 だがその知識は、“初期設定” されているプログラムによって、跡形もなく掻き消されていくらしい。 そこから這い出し、脱「三逆」がどうやら身に付き始めるころには「組革研」会期も終わろうとしているのが毎会期のことである。
  「三逆リーダー」図のABCについて、ここで一言ずつ補記しておく。
  まずはAの「部下に嫌われない努力」
  リーダーの使命は、部下に仕事を「やらせきる」ことにある。 できるかぎり自力でである。 記すまでもなく、「人を道具として」ではなく「人を人として」だ。 そうせねば、仕事もおぼつかないし、本人の人生、達成感も生きがいも、いわんや自己実現などあったものではない。
  にもかかわらず、多くのリーダーがそこから逃げてしまうのである。 部下に嫌われるを恐れての自己防衛であることは間違いないようだ。 それに費やされた残りの神経でのみ、部下を動かそうとするのである。 したがってその結果は、人を動かす手練手管に頼らざるをえないことになってしまう。
  上図のBもそれと無縁ではないらしく、Cにいたってはそれそのもののようだ。
  Bの「教える、指示する、世話をやく」
  対象(仕事と部下)状況に関係なく、先回りして、教えよう、指示しよう、世話をやこうとするのである。 そうすることがマネジメントだと、これまた “初期設定” されてしまっているかのようだ。
  一時期さんざんに非難された子どもに対する過保護と瓜二つだ。 今月の「組革研」にも、大の大人である部下に「紙の枚数を数えて」「外出するときは寒いかもしれないから服着て」等と、幼稚園の先生並みのリーダーが現われた。
  「教・指・世」をゼロにしろと言っているのではない。 必要ならば、大いにやらねばならない。
  「必要」の条件は二つだ。 一つは、相手にそのニーズがあること。 ニーズのないところに何をやっても、けっきょくそれは無駄に終わることは、企業人ならば百も承知のところであろう。 もう一つは、どうしてもそうせねば相手が動けない場合である。
  この二条件のいずれか無くして「教・指・世」をいくらやっても、けっきょくは実らない。 その結果はと言えば、部下のやるべきことを肩代わりしてやっているリーダーがいるではないか。
  Cの「部下の心を“操作”しようとする」
  これぞ手練手管のオンパレードだ。
  話しは古いが、さる大マスコミに招かれたときの話しである。 そこで出会った言葉が「飲みねー会」であった。それがまるでマネジメントの中軸になっているかのような印象を受けた。 一部の業界で流行ったものには、並々の仕事を済ますと「おめでとう」と言いながら周囲が拍手するという手法があるそうだ。 褒めて喜ばせ、やる気に誘導しようということらしい。 犬を手なずける手法とどこが違うのか。 その延長上には「ほめ達」なる資格があると聞く。 その資格を与える社団法人があって、そこには「組織学者」を名乗る教授が関与しているらしい。
  人の心の動きを外から操作しようとする手練手管には事欠くことがない。 上記などはそのほんの一例ではないか。 この人たちがよく持ち出すのが山本五十六の「……ホメテヤラネバ 人ハ動カジ」だ。 この「ホメル」を人の心を動かすの道具とするのであろう。
  褒められて嫌な思いをする人はいない。 しかし、それが演技、手法、煽てられていると見えたとき、人びとはそれを受け容れるか。 下から上は素通し硝子がごとくよく見える。 人は、己の心を操作しようとするその魂胆には必ず反逆する。
  「褒める」をゼロにしろと言っているのではない。 褒めたくて褒めるのは、人として自然であり、当然のことだ。 しかしそれは、人としての有り様に感心したときに限るのではないのか。

  そして “足し算” である。
  我われ人間は「やる気」を持っている。 他方で「やらないで済ます気」を持っている。 自分の中でこの二つの「気」が “綱引き” をやっている。
  この綱引きにおいては多くの場合、後者が勝ってしまう。 それではだめだとわかっていながら、ついついにだ、思わずにだ。 これが人間という生きものの自然の姿であろう。 だめ人間に非ず。前者が常勝する人などが居たら、それこそ異常だと言いたい。 我ながらつくづくとそう思う。
  だが、それで終わっていたら仕事もダメになってしまうし、人生もダメになってしまう。 そこで、あまりにも大事になってくるのが「やらないで済ます気」を許さない力の存在である。 これを大胆に換言すれば、イコール「やる気」を応援する力だということになる。
  この「力」の源泉は二つだ。 一つは「リーダー」の存在であり、一つは、困ることだらけの生々しい「状況」の存在である。
  前者について。前記Aの補記につきる。 拙著※2のいずれにも詳述してある。
  後者について。 私の最初の著作は『「状況」が人を動かす』であった。 この著はベストセラーにもなったし、ロングセラーにもなったのだが、30年まえに発刊されたものであって今は絶版、そこで、その要点のみをごく手短かに記しておく。
  「状況」が人を動かすことは、自分自身を思い返しても、他人を見ても、誰もが目の当たりにするところであろう。 「人間は自分が困れば必ず動く」。 やらないで済ませてはいられないからだ。
  この点では幸いにというべきか、都合よくというべきか、企業の中は困ることだらけであろう。 問題だらけであろう。 だとすると、人びとは「やらないで済ます気」になってはいられないはずだ。 にもかかわらず、やらないで済ませようとする。 どうしてか。
  組織の中は “化粧” されているのだ。 だめ組織ほど厚化粧になっている。 都合のいいところは目立つようになっており、不都合なところは隠されている。 意図的にではない。 無意識のうちに我知らずそうなっている。
  そこで、「やる気」への応援の具体策は “化粧はがし” ということになってくる。 そのやり方については下記の拙著にゆずらざるをえないが、ここに、大事な二ポイントのみを記しておく。
  一つは、「状況」の説明ではだめ、いわんや説教などでは全くもってだめだということ。 生々しいことが大事なのだ。 できるかぎり、現物・現地に近づけることだ。 もう一つは、その作業を、できるかぎり当事者たちにやらせることである。

  最後に、リーダーの有り様の「引き算」と「足し算」によって、部下の「仕事力」が増大した典型例を二つ、マツダの竹林俊宏さん(衝突性能開発部側面・後面衝突安全開発グループ)と、ある大企業のIさん(品質保証部長)の「5倍増」を紹介しておく。
  竹林俊宏さん 「アウトプットが2~3倍増えた。 メンバーの仕事のスピードが上がったから。 また、手戻りが半減した。 目的やそこまでのプロセスを彼ら自身が考えるようになったからだと言える。」
  Iさん 「はじめはやらなくてもいい言い訳をしていたが、いつしか食事の時も休憩時も、話すのは仕事ばかりというようにみんながのめり込んでいった。 約1年後、製品不良率1/4、生産能率3割向上、工期が2割短縮した。」
  いずれもが、正確に表現すれば「増大」したのではない。 潜在していたものが「顕在」してきたのである。

18.10.30. 

藤田英夫 

  ※1 『脱「三逆リーダー」』2018年7月4日 ダイヤモンド社刊
  ※2 同上
    『「状況」が人を動かす』1989年4月17日 毎日新聞社刊
    『人を人として』1998年11月3日 PHP研究所刊
    『人間力』2012年12月6日 NTT出版刊
    『人間力をフリーズさせているものの正体』2015年4月21日 シンポジオン刊

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