人間力は心の働きに連れて発揮される。心は人間力が発揮されると動く。 これでは人間力が先か心の動きが先か、にわとりと卵の話になってしまうが、これが人間の動きの自然の姿ではなかろうか。
　 そういう人間の自然の動きの循環に作用しうるものは、いったい何か。 「状況」がそれだ。 人びとと問題だらけの状況との相互作用である。
　 人間ならば、状況を認識さえすればそれに反応する。 必ずだ。
　 どんなに指示・命令しても動かない人間、てこでも動かない人間がいたとしよう。 その彼も、そこが火事にでもなれば必ず動く。 ロボット（今までの） は指示・命令で即動くが、状況には反応しない。 どこかの事業所が火事になってロボットが何台も逃げ出したなんていうニュースを聞いたことがあるだろうか。
　 一人前の年になって就職し、職場ではいやいやの仕事、給料の大部分を小遣いとしながら相変わらず親がかりの生活をしていた娘さんがいた。 その彼女が、結婚して赤ちゃんが生まれたとたんに育児という二十四時間〝労働〞に、我が身を粉にするほどに豹変する。 状況を認識して反応したのだ。
　 放ってはおけない、問題だらけの生々しい状況こそ、人びとの人間力を誘い出す、唯一の源泉なのである。
　 （ 『状況が人を動かす』第五章より抜粋、少し加筆）