日野原重明さん(聖路加国際病院理事長・名誉院長)は昨日105歳で帰天されたが、103歳くらいまでは現役医として診療に当っておられた。最近の様子はうかがいしれぬが、つい数年まえまではエレベーターを使わず、階段を2段ずつ昇っておられたそうだ。 日野原さんの著作は200にも及び、中には126万部も売れたのがあると聞く。 多くの人たちが、我が身の健康を願って日野原さんに準じようと考えるからであろう。
では、日野原さんの本を読んだ人の中に、エレベーターを使わずに階段を昇る人はいったいどのくらいいるであろうか。
最近の駅にはエスカレーターが設備されている。 ホームに電車が着く。 見ていると、狭いエスカレーターには人が重なり、広い階段には人はぱらぱら。 エスカレーターのほうが楽だからであろう。 階段を昇ればいい運動になるのに。 しかもノーコストだ。 企業人がよく口にする費用対効果は抜群なのに。
では、エスカレーターのない駅ではどうするか。 人びとは事もなげに階段を昇って行く。
ということは、エスカレーターがないということは、階段を昇ることを 「強制」されているということではないか。 我われ人間は、 「強制」されれば 「やる」のだ。
兵庫県にある公立の八鹿病院では、 「脳卒中で半身にまひが残り、車椅子に頼るしかなかった人が立ち上がる。 歩くことをあきらめていたお年寄りが、自分の足で歩き始める」*。 大川弥生さん(国立長寿医療研究センター医師)が、不安を訴える看護師や療法士との葛藤の中で実現させていることだ。 その一部がNHKテレビに映し出された。 その情景は私の目に焼き付いて今も離れない。
小柄の細身の老人が立っている。 傍らには看護師と療法士が付き添う。 老人は、立つことはどうやらできるが歩くことはできない。 その老人を立たせ、1、2メートル先を指差してそこまで歩くことを 「強制」している。一歩を踏み出すまでは立たせたまま。 何分位がたっただろうか、テレビ映像としては目を疑うほど長く、息を凝らすような時間が過ぎた。 老人の片足がぴくっと動いたかのように見えた。 ごくわずかに踏み出したかのようにも見えた。 老人から声が出た。 絞り出されたような微かな声だ。 「あぁ、うれしい……。 ありがとう」。
この老人は6か月後には歩いて退院していった。
この 「強制」を悪とするのか。
我われ人間は、諸状況による強制の中で生かされ、生きているのではないか。 自然環境もとより、時間も、人間によって作られた法、社会的な制度やルールも、躾も、総ては人びとの自由を縛る強制力を有している。 我われは外からの力による 「強制」だらけの中で人生を綴っているのだ。
* NHK総合テレビ『NHKスペシャル/車いすから立ち上がれ〜脳卒中のリハビリ革命〜』(2002年2月23日)
( 『人間力』第一〇章より抜粋、加筆)
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