「夢」がなければ人は人でありえない、と私は思っている。 その大小は問題ではない。
仕事の場に夢がなければ、それは仕事をしているのではなく、金儲けの手続きをやっているにすぎない、と言いたい。 今、そういう作業をしている人の何と多いことか。 夢の共有こそ組織の土台をなすのであって、したがってリーダーは、金の追求屋さんではなく夢の追求屋さん、その共有屋さんでありたい。
そんな話をすると企業人から言われる。 「それどころではないですよ。 なにしろ、業績を上げなければ……」と。
この数十年、日本人の多くが夢をどこかに置き忘れてきた結果が今日のこの社会ではないか。 それが全てだとは言わないが。至るところに蔓延するこの閉塞感も、子どもたちが居場所を失って苦しみもがいているのも、家庭の中、学校の中、企業の中、社会のどこにも夢がないことを示しているのではないのか。
本田宗一郎さん、井深大さんと言えば、世界に冠たる経営者である。 私は、今は亡きこのお二人を知る機会に恵まれていたく尊敬しているのだが、本田技研工業とかつてのソニーは、それぞれの方の夢の産物ではないか。
本田さんは、 「当社は絶対に他を模倣しない どんなに苦しくても 自分たちの手で日本一、いや世界一を」「誰にもつくれないような世界一速い車をつくるのが俺の夢だ」と言ってやってこられた。
井深さんは、 「世界ではじめてのことをやる」と言ってやってこられた。 60年も前にはすでに 「ポケットに入れて持ち歩くテレビ」を考えておられた。 もしも健康でおられたならば、スマホなどはアップルを待つことなかったであろう。 ソニーがトランジスタラジオで先陣をきったとき、 「ソニーは東芝のモルモットだ」と言ったのは、たしか大宅壮一さん (ジャーナリスト)であった。 それに対して口惜しくはないかと聞かれた井深さんは、 「ぜんぜんありません。 モルモットでいい。 先頭を走って、日本よ俺についてこいと言いたい」と。 その井深さんには 「会社を大きくしようとか、金を儲けようという意識はなかった」。
本田さんと井深さんは、金儲けのレーサーではなく、夢を追うレーサーであった。
夢は、たとえ達成できずとも、それもまたよいではないか。 夢を抱いただけでも得をしたのだ、そのように生きることができたのだから。
「何をなし遂げたかではなく、何をなし遂げようとしたかである」と言ったのは彫刻家の外尾悦郎さんである。彼は、アントニオ・ガウディ設計によるサグラダ・ファミリア教会―着工してからすでに134年、そしていつ完成するとも知れないこの建築現場に飛び込んではや40年間、天使の像などを彫り続けている人だ。
こう言う私自身も、仕事を通して見果てぬ夢かもしれないものを追い求めている一人のつもりでいる。
( 『人を人として』第五章三より抜粋、加筆)
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