キャンパスリーダーの独り事

「化粧はがし」の五つの方法
――「状況」が人を動かす・2  No.187

187CL.jpg  常識的に表現すれば 「化粧落し」だが、ここで言うそれは 「さっと一拭き」とはいかないので、あえて 「剥がし」とした。 即ち、人間の習性による化粧をはがして、 「人・仕事関係」の場を問題だらけの生々しい状況の中にどっぷりと漬け変えることである。
  化粧を落して素顔を現した人間の場合を思い浮かべれば、そこから実感するものがいかに変わるかは容易に想像できると思う。
  と言うとすぐ部下に、状況をよく見ろなどと指示する人がいる。 問題を生々しく捉えることの重要性の説教を始める人がいる。
  問題だらけの生々しい状況を実感するということ、それを一人ひとりに委ねてはならない。 そんな生やさしいことではないからだ。 指示や説教では実現の可能性ゼロであろう。 マネジメント側が、少し腰を据えてそれなりのことをやらねばならない。
  それが 「化粧はがし」である。 その 「方法」と 「キーポイント」を数週にわたって記しておく。

  今週は 「化粧はがし」の方法。
  いくつもが考えられるが、組革研やその参加企業で行われているのは、 「対象ウォッチング」 「現地・現物調査」 「変えてみる、やってみる」 「プロセス再現」 「問題を大きくする」の五つである。
  その五つについて、手法的な詳細は別機会にゆずり、ここでは簡単に紹介しておく。
  (1)「対象ウォッチング」: 仕事とは 「対象」に 「対応」していくことである。対象が人間の場合もあれば、物、知識などの場合もあり、それは仕事の種類による。
  その対象状況について、あっと思ったこと、まずいと思ったこと、気になったこと、クレームはもちろん、その 「一場面を捉えて」、 「ありありと」文字や絵、写真などに 「再現」しておき、それをまとめて 「一覧一望」することである。 一覧一望とは、ひと目で全体が見渡せるように貼り出し、それを見ることだ。
  捉えるのと再現、一覧一望を見るのはそれぞれの都合で別々にやってもよいが、一覧一望の貼り出しだけは一斉にやるのがよい。
  これは、日常的な 「化粧はがし」の代表的なものである。 慣れてしまえばそれほど時間を要するものではない。 捉えるのに時間をとることはないし、その再現も1ウォッチング4、5分というところであろう。 それを1日1件、1、2週間に1度でも一覧一望すればよい。
  一覧一望の際、説明などは不要だが質疑応答はよい。
  たったこれだけのことである。 これを1年も続ければ、どれほど人と組織が蘇ることか。 魚を水に帰すがごときと言ったら誇張になるだろうか。
  (2)「現地・現物調査」: 改めて問題発生の場に立ち、 「対象」に手を触れて調べることである。 その結果を再現して一覧一望する。
  いかに今まで、自分たちは 「対象」についてわかっていなかったか、したがって、それへの 「対応」がとんちんかんであったかを、きっと思い知ることになるであろう。
  (3)「変えてみる、やってみる」: 何でもよいからとにかく、今までのやりかたを変えてみることだ。 変える = 改善ときに改革に連なること頻りだと思う。
  考えてばかりいるよりも、とにかくやってみることである。 大小の発見に連なること頻りである。
  これは個々にやればよい。 化粧がはがれて問題が浮き出てくると思う。
  (4)「プロセス再現」: 問題が起きたとき、したがって非日常的にやることになる。 比較的大きな問題、あるいは組織の全員がかかわるような問題をつかまえるとよい。
  その問題が発生した少し以前からそれまでの 「プロセス」を、その背景や関係のありそうな事がらを含めて、文章や絵、写真などによって、 「ありありと」 「あますところなく」再現し、それを一覧一望することである。
  これによって、仕事の対象状況、それと自分たちとのかかわり合い、自分たちの仕事のすすめかた、それらが鏡に写し出されたようになって、一人ひとりがそれを実感することができる。
  日産プリンス宮城の元社長・長谷直太郎さんは、目標や予算は部下に委ねる一方、 「再現だけは自分が鬼になってやらせねば」と、これに力を入れていた。 その努力は、業績と組織体質の全般にわたる再生に計り知れないものをもたらし、今に至っている。
  「プロセス再現」のすすめかたや実例については、拙著 『状況が人を動かす』に詳しい。
  (5)「問題を大きくする」: 問題を消そうとする習性とは反対、即ち、火消しから火付けに転向することである。
  うまくいっている、いっていないは、実態ではなく、人びとの認識にすぎない。 そこで、小さな問題だと思えても、それを大きくしてみることだ。 化粧がはがれてきて、そうはうまくいっていないことを、みんなが実感することになる。
  本当に小さな問題ならば、大きくしようとしてもそうはならない。 大きくなるのは、実は大きな問題だからである。
  五つのやりかたの中で、特にこれだけはリーダーがやることだ。
  ( 『人を人として』第六章二より抜粋、加筆)

17.4.25.

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