作家のジェームス三木さんからおもしろい話を聞いたことがある。 記憶をたどって記してみるとこうだ。
テレビのドラマなどに、 「しゃかりきで逃げる泥棒とその後をふうふう言いながら追いかけるお巡りさん」、 こんなシーンがよく出てくる。 見ている人たちは泥棒とお巡りさんのどちらを応援するか、というのだ。 実際に試してみると、子どもの場合は例外なくお巡りさん、大人の場合はひとひねりしてか泥棒と答える人が多いのだが、そこには根拠があるわけではない。
ところがこれは、自明のことなのだそうだ。 その鍵はそのシーンの前にあるのであって、それまでの流れが泥棒とお巡りさんのいずれの生活を描いてきたのかで、きれいに分かれてしまう、というのである。
なるほどと、かつてのジャン・ギャバン扮するフランス映画 「望郷」 などを想い出した。
つまり我われは、そうと意識することもなく、いつの間にか自分が身近に感じる状況に身を寄せる、ということである。 仮想現実の世界においてさえである。 いわんや我が身をおく本ものの現実においてをや、である。
人間は、 「状況」 を実感すれば必ずそれに反応する。 理くつや言葉によって外から注入されるのではなく、 「自分で感じれば」 である。
状況が問題を生々しく顕在化させていればいるほど、人びとにとってはそれが実感しやすく、したがって人びとの反応もまた強くなる。
どんなに指示・命令しても動かない人間、てこでも動かないという男がいるとしよう。 その彼も、そこが火事にでもなれば立ちどころに動く。 このままじっとしてはいられない生々しい状況が迫ってきたことを、自分で実感したからである。 では、人間とは反対の本性を持っている (今までの) ロボットはどうか。 指示・命令によっては即動くが、状況に反応することはない。 どこかの事業所が火事になってロボットが何台逃げ出した、なんていう新聞記事を見たことがあるだろうか。
仕事の状況は、たえず変化し、いろいろな問題を装ってその姿を現してくる。 うまくいっていることもある一方で、うまくないことが多々起きてくる。
その、思った通りではない状況、目をつむっては済ませられそうにない、我が身が直面する生々しい状況、それは、いやなものだけれど、人間として生きていくことにとっての願ってもない糧なのだ。 これこそが、人びとをして 「人間力」 の発揮を 「強制」 する、あるいは誘い出す大いなる源泉なのである。
[来週に続く]
( 『人を人として』 第六章一より抜粋、少し加筆)
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