今週は、春夏秋冬、同じ服と同じ靴が毎日のBさんである。
外出中のBに、彼のお母さんから何回となく電話が入っていた。 それを知ったKは、夜も遅くなり始めた時期だったので、息子に早く帰るようにとの電話だと思いながらも、念のため、用件を聞いておくように女子事務員に頼んでおいた。
「昨日もその前日もアパートに帰っておらん。 着替えは大丈夫か、ご飯は食べているか心配だ。 一度電話をしてほしい」 であった。 Kは初めて、Bにもそのようなお母さんがいることに気づいた。
お母さんの様子をBに聞いてみると、すでに80歳を越し、車椅子での生活、彼のアパートから数百メートルのところに住んでいるという。 「すると何か、そのお母さんがこの寒空の下、車椅子で夜中に、お前のアパートの窓の明かりがついているかどうか、毎日見にみえていたということか」。 Bは黙っている。
「てめえ、それでも人間か!」 ……、思わずKの鉄拳が空を切った。 背中を丸めるBに、今度はKの足が襲った。
Bの目からは涙が溢れる。 Kも泣く。 「てめえはもう会社辞めろ。 お母さんの近くで働け。 毎日、お母さんの顔の見える所にいてやれ。 この程度の給料はどこでももらえるが……」。
……、 「辞めません」 とBの小さな声。 「何!」。 「辞めません」 と今度は大きな声。 「これからはもっとどつくぞ。 遠慮はせんぞ」 とK。 「辞めません」。
しじまな空気が流れていく……。 やっと小さな声がBから出てきた。 「この歳になるまで、こんなに自分のことを思ってもらったことはありません。 ありがたい……。 今日から必ず帰ります」。
Kの唇はうれしさに震えた。 「しっかり仕事をやれよ。 お母さんに、まんじゅうの一つでいいから買って帰れよ」。
偶然にかその月、彼に販売手当が付いた。 「こんなにもらったのは初めてですわ」 と喜ぶ彼を呼び寄せたKは、 「その金全部、着る物にしろ。 ベルトや靴もだ。 これは命令だ。 残りでまんじゅうを買えよ」。
翌朝、花のセールスマンを見ることとなった。
[殴る蹴るを推奨しているのではありませんよ。 念のため。 来週に続く]
( 『人を人として』 第五章二より抜粋、少し加筆)
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