キャンパスリーダーの独り事

“悪” とぶつかり合って  No.143

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  組革研に付設のチームワーク学校 (子どもたちの組織革新研究会) での私の体験を紹介してみよう。
  ここの生徒は小学3年生から中学生まで、その組織は8人のチームをベースに構成されている。 私はその“校長”を務めていた。
  各チームのリーダーには企業人である組革研OBが当っている。 ある期に、中学生チームのリーダーを買って出た人がいた。 某巨大企業の教育課長の職にある人である。 かりにBリーダーと呼んでおく。 地域社会の少年野球チームの監督をしており、中学生の扱いには自信があると言う。 他の人たちは小学生チームを好むので、渡りに舟とばかりに即決となった。
  この学校には、下に権力を感じさせるような道具立ては何一つない。 上は丸腰だ。
  当日、子どもたちが集まってきた。 見渡すと、180センチはあろうか、いがぐり頭がひときわ目立つ図体のずっしりしたのがいる。 見るからに、世間でいうところの悪の風体だ。 どこに行くにもまともには歩かず、キックボクシングよろしく、道端の生垣などを蹴り上げながら歩いている。
  困ったのが来たなと内心では思いつつ、曲りなりにもやってきたのだから、本人もきっと何かを求めているに違いないとの希望的推測を交えつつ、ことの成行きを見守るよりほかはなかった。
  静岡県・中川根の林の中でのテント生活。 自分たちのテントは自分たちで張らなければならない。
  初日の夕刻、いがぐり頭が何やらプラカードを担いで歩き回っている。 見ると、Bリーダーをさらし首にするかのように嘲笑う絵と文字である。 「あいつに別荘作ってやった」 とか言っている。 何かと思ったら、Bリーダーのテントをとんでもなく遠くに隔離したと言うのである。
  Bリーダーは、彼の動きに手も足も出せず、彼を中心とする中学生たちの動きに流されるままになっていたようだ。 どうしたものかと、私にとっては考えあぐねるだけの一日が過ぎていった。
  翌日、こま地図を頼りに5キロぐらいを歩くある行事の始まりである。 彼だけは動かないだろうとの私の予想は見事にはずれ、彼は出かけて行った。 そしてゴールに帰って来たときである。
  私は彼に 「お帰り」 と言いながら握手の格好をして手を伸ばした。 一瞬ためらいを見せた彼は、すぐに私の手をぎゅうーっと掴んできた。 満身の力を込めてであろう顔をしかめて。 そして手を離して私に背を向けた。 次の瞬間私は、 「おい」 と彼を呼び止め、再び私は手を出した。 釣られるかのように彼の手が出てきた。 今度は私の番である。 ヨットをやっていたおかげでか、握力には自信があった。 思いっきりの力任せに握り返した。 血相もそれに同調していたかもしれない。 彼の体がへたりかけたのが見えた。
  その夜であった。 真っ暗闇の林の中を歩いていると、後を付けられているような気配がする。 思い返せば 『座頭市』 の気分ということになるのだが、そのときは心穏やかではなかった。 来たな! 私が振り返るのと彼の 「校長! 」 が同時であった。 「何だ! 」 と私。
  予想外の彼の言葉に、また驚かされた。 「ここの校長はおもしろいなぁ」 と言うのだ。 彼は、私を受け止めたらしい。 ほっとした瞬間であった。
  それからの小一時間、彼との立ったままの会話が続いた。 学校の教師や校長のこと、両親のこと。 彼が吐露するものは、私には共感するものばかりであった。
  やがて彼の話しは、自分たちのチームリーダーへと移っていった。 「あいつはばかだよう、さっきさ、おむすびに洗剤、がばがばぶっかけてやったら、あのばか、食っちゃいやがんの」。
  Bリーダーはいがぐり頭から、洗剤漬けのにぎり飯を食べるかチームから立ち去るかの、二者択一に追い込まれていたのであった。
  B氏は有能な人である。 しかし、彼らからは逃げていたのだ。
  いがぐり少年を取り巻く周囲、親、学校の教師たちも、彼と真正面から向き合うことなく、逃げているのではないかと思えてならなかった。
  ( 『人間力をフリーズさせているものの正体』 第七章六より抜粋)

16.5.24.

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