キャンパスリーダーの独り事

リーダーという 「人間」 復活のドラマ  No.142

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  その一例を掲げよう。 この話しは、一圓精治さん (昭和電工アルミ押出・機能材事業部製造部長) のものである。
  「事業再構築のための人員整理によって、従業員は残るか退職するかの選択を迫られ、多くの人が去りました。
  この半年で総てが変わってしまいました。 決め事が崩れ、設備が壊れ、不具合はそのまんまにほったらかされ、みんな見て見ぬ振り。 現場を回れば、目をそむけたくなるような光景があちこち目に付いて離れませんでした。 当りまえのように、大きな故障が起こり、けがが発生しました。
  私は、課せられた営業利益目標を達成しなければ工場を閉鎖するという問題に迫られていました。 みんな頑張ろうと部下には言っていたものの、頭のどこかには常に、こうなったのは俺が悪いんじゃない、俺のせいじゃないんだという思いがありました。
  そんなとき、組革研の 『リーダー体験』 がそんな私を一変させてくれました。
  部下であるチームメンバー達、現場調査に回っているし、仕事は時間どおりに進んでいるようなので、これといった問題はない、リーダーって楽なもんだと感じておりました。 メンバーとは適度な距離感を保ち、評論家のような言葉で操っていけばよし、となっていました。
  そんな気分でいたとき、ブロックリーダーから 『本気度が足りない』 と、いきなり不意打ちを食わされたのです。 本気度って何だ?  問題もなくやっているのに、俺のどこが悪いんだ、どういう風にやれば良いリーダーなのか。 頭の中は疑問でいっぱいになりつつも、メンバーに真正面からぶつかることから逃げていたこと、他者にぶらさがっているだけ、ただの傍観者だったことに、少しは気づくこととなりました。
  しかし、この程度ではどうということはありませんでした。 やがてメンバー達が思うように動いてくれなくなってきたのです。 どうしても火が付かないのです。
  私は彼らに、 『みんなやる気がないなら、俺は帰る。 リーダーなんてやってられない』 と言ってしまったのです。 言い終わるか終わらないかの時です。 『クビだ』 、とブロックリーダーから怒声が飛んできました。
  何が何だかわからないまま、私はチームを離れて一人、自分の部屋に戻りました。 何で俺が悪いんだ、そんな思いでした。 ここにいてもしょうがない、会社には山ほどの仕事が溜まっているし、そっちのほうが重要だ。 荷物をまとめて夜が明けるのを待ちました。
  部屋を出たところで呼び止められ、キャンパスリーダーの元へ行くことになりました。
  『あなたには子どもさん、いらっしゃる? 』
  『? はい、おりますが……? 』
  『あなたは、自分の子どもを放り出して逃げるの』
  『リーダーは部下の運命を握っているんだ。 その部下を放り出して逃げるのですか! 』
  数々のキャンパスリーダーの言葉に言い返すことなどできず、涙と鼻水しか出てきませんでした。 その時の部屋の風景や窓からさす朝の光、今でも鮮烈に思い出します。
  俺は、自分は逃げながらみんなには頑張れと言っているんだ、うまくいかないのは部下が悪いんだと言って、済まそうとしているんだ。 俺はいつも逃げてるんだ、本気を出さない卑怯なやつなんだ。 私は自分が見透かされているような気がしてきました。
  猛省しました。 『上司は部下の運命を握っている、部下だけでなく、その家族の運命も変えてしまう』 と。
  この体験が私を奮い立たせ、工場を立て直さねばと決意させたのです。 ここで働く部下達が、活き活きと仕事のできる、悩みながら、苦しみながら成長できる工場にしたいと切望するようになりました。
  以前から組革研で、仕事力をアップさせるのは、やりかたやノウハウではない、重要なのは 『その気』 と 『意識』 だと言われていたことを、私はすっかり忘れていたのでした。 基準書や決め事が守りきれないから良い物が作れないのだと思っていました。
  今は違います。 どんな立派な基準書や標準書を作っても、しょせん紙です。 人間の 『魂』 が良いものを作るのです。
  工場は変わりつつあります。
  この4、5年で生産性は20パーセントアップ、ゆるやかに右肩上りを続けています。 チョコ停は3分の1に。 けがは昨年度ゼロです。 軽やかな音を奏でるポンプ、新品と見間違えるような機械のチェーンがどんどん増えています。 新品と交換したのかと聞くと、古いのを洗って綺麗にしたというのです。
  なによりも、人員整理の苦難を乗り越えた部下達が、明るく元気になったのをうれしく思います。 彼らの中から夢も聞こえてきます。 自分はどうなりたいかとか、品質を作り込むのに不良を減らす改善ではなく、不良の出ない維持管理された設備に仕上げていきたいとか、こういう工場にしたいという富士山の頂上はここにあって、今は2合目から3合目やから、もう一歩やろうやとか、後輩に自慢できるものをやっていこうとか。
  守りぬく、維持し続ける、やりぬく人なしでは何もできない。 仕事に魂を込められる人を創らねばと思っています。 そんな人がいれば、どんな苦難の状態に追い込まれても、工場を守り続けられるはずです。
  そのためにも部下達を問題に直面させ、苦悩し、成長する場面をこれからもつくっていかねばと思っています。
  俺はやっていきます。」
  ( 『人間力をフリーズさせているものの正体』 第七章二より抜粋)

16.5.16.

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