キャンパスリーダーの独り事

仕事とは 「人生そのもの」 である/ 「仕事の3D」 その3  No.135

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  ところで我われ人間の 「生産生活」 は、一日のどれほどを占めているだろうか。 休日を別とすれば、毎日の大部分ということになる。
  1日は24時間だ。このうち、日本人が自分の生理を維持するために費やしている時間の平均は、10.2時間だそうだ*。 それを差し引けば、我われが活動できる時間は13.8時間ということになる。 このうちのどれほどが 「生産生活」、即ち働くことにあるだろうか。 通勤時間の平均はいま片道約1時間、これを含めると、大人の多くは、動ける時間のほとんどを働くことに費やしていることになる。
  子どもと老人を除く現役時代は、人生の中枢期である。 その大部分は 「生産生活」 にあるのである。
  NHKのかつてのテレビ番組 『プロジェクトX』 は、多くの人びとの心に深く残っていると思う。 末期のものの一部を除けば、何と素晴しい筋書きのない人生のドラマであったであろうか。 何年も何十年もまえのことを想い出して、テレビカメラの前で涙を抑えきれない人たちがいた。 一視聴者にすぎない私も、感動にいく度涙したことか。 いわんや当事者は、いかほどに感動したであろうか、生きがいを実感したであろうか、 「自分実現」 を成しえたことであろうか。
  あの 「生産生活」 が有ったのと無かったのとでは、あの人たちの人生の質は全くの別ものになっていたことであろう。
  あのような、我われの人生にとっての究極目的、自分が存在していることの、あるいは生きていることの証であるに相違ない感動や達成感、生きがい、 「自分実現」 を、遊びの中で体現できるであろうか。
  さらにである。 仕事の中で学べるものは計り知れない。 人生の妙味にも事欠かない。 その量においても深さにおいても。
  まさに 「生産生活」 の質こそが、人びとの人生の質を左右していくのである。 即、仕事は 「人生そのもの」 なのだ。 私は今なお現役の83歳だが、自分自身の体験からもそう確信している。
  これが、 「仕事の3D」 の三つめだ。

  「ワーク・ライフ・バランス」 なる言葉が流通している。 内閣府には 「仕事と生活の調和推進室」 が存在しており、 「仕事と生活の調和 (ワーク・ライフ・バランス) 憲章」 なるものが制定されているそうだ。
  人生において、 「生産生活」 と 「消費生活」 のバランスを折好くしていくのは、きわめて大事なことだ。 この二面の調和をはなはだしく欠けば、人生そのものが思いやられることにもなる。
  だが私は、この推進活動にある危惧を抱く。 それは、労働と人生を別ものとしているのではないかと思えることである。 それどころか、これを騒ぎ立てる人の中には、働くことと人生を対立する存在と捉えている人さえいるのではないかと邪推したくなってくることである。
  つい先日のこと。 「仕事は死の時間だというのが欧米では常識になっている」 と主張してやまない認知症のベテラン専門医と小一時間ほど話しをした。 欧米人がではなく、この医師自身が 「狂った仕事観」 に取り憑かれてしまっているように思えてならなかった。 「人は生きがいを求めているから、団塊世代の半分は定年延長を求めていない」 と言う大学教授もいる。 「給料は(仕事の)がまん料」 だと言った評論家もいた。 「働き蜂」 だの 「仕事人間」 だのの言葉を口にして、仕事に心血を注ぐ人たちをせせら笑う輩もいる。 なんと浅薄な、お粗末な仕事観であろうか。 西洋かぶれの自任知識人にはこれらの類が多いようだ。
  これらの人たちは、 『プロジェクトX』 を何と見ていたのであろうか。 彼らにとっては、私の 「生産生活」 などという概念は、とんでもないものになってしまうことだろう。
  私はかつての自分の事務所に従事する人たちに、 「仕事の報酬は 『自分実現だ』。 給料はおまけだ」 と言ったことがある。すると若ものから、 「おまけは多いほどいいです」 と返ってきた。 そのとおり。
  私はただ働けばよいと言っているのではない。 労働の質、その種類ではなく 「人・仕事関係 (人びとと仕事とのかかわり合いかた) 」 の質こそが、人びとの人生の質を左右していくのだ、と言いたいのである。

* 総務省・統計局「平成18年社会生活基本調査」から算出

  (『人間力』第一章一より抜粋に加筆)

16.3.22.

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