私の最初の著作は『「状況」が人を動かす』* であった。この書名に至るには、これでは何が何だかわかりにくいと危惧する出版社と、何が何でもこれにしたいという私との間でかなりの応酬があったのだが、最後は私の意で一件落着となった。そんな経緯があって私は、この書の売れ行きを著者の域を超えてであろう心配したのだったが、幸いにも東西の名だたる大書店でベストセラーとなり、ロングセラーともなって、出版社にも喜んでもらうことができた。
ベストセラーとかロングセラーになったということは、この書名が呼びかけるものに共感する人の少なくないことの現れだと思う。
経営者の中では村井勉さん(アサヒビール会長・当時)と伊藤昌壽さん(東レ社長・当時)が、学者の中ではノーベル賞に毎年のようにノミネートされていた西澤潤一教授(東北大学総長・当時)がこの著を推薦してくださった。2011年に横浜ゴムの社長になられた野地彦旬さんは、新社長就任の記者会見において愛読書はと問われ、「『「状況」が人を動かす』を愛読しており、『座右の銘』ともいえます」と応えておられた。
人間は「状況」を実感すれば、必ずそれに反応する。他から説明されるのではなく「自分で感じれば」である。それによって、人と状況との相互作用が始まり、人びとにとって問題は自分事に連なっていく。他から説明されたものは多くの場合、他人事に終始する。
さらにその先には、人びとを必然として動かすものが存在するのである。「困った状況」がそれだ。人間は、自分が困れば必ず動く。例外はない。できない理由、やらずともよい理由を挙げて逃げてはいられないからだ。言い訳を並べて自分を納得させてはいられないからだ。
これを裏返せば、我われ人間は自分が困らないと本当には動かない、持っている力を総動員することはない、ということになる。
どんなに指示・命令しても動かない人間、てこでも動かない男がいるとしよう。その彼も、そこが火事にでもなれば立ちどころに動く。馬鹿力さえ出す。自分が困る状況が生々しく迫ってきたからだ。では、人間とは反対の属性を持つロボットはどうか。どこかの事業所が火事になってロボットが何台逃げ出したなんていうニュースを見聞きしたことがあるだろうか。指示によって即動くロボットは、状況に反応することはない。
状況に反応、つまり状況に適応して動いていくのは、人間に限らない。動物だろうが植物だろうが、およそ生あるものの総てがそのようにできているようだ。作用する状況の中味がそれぞれに異なるだけだ。猿には鼻毛が無いそうだが、炭鉱に住まわすとそれが生えてくるという。樹木は、いろいろな種を混ぜて密に植えると競い合って育ちが早いというではないか。
* 藤田英夫著『「状況」が人を動かす/管理からリードへ』(1989年)毎日新聞社
(『人間力』第六章一より抜粋、少し加筆)
只今、サイトの更新を一時停止しております。
改めて更新を再開する予定ですので、少々お待ち下さいませ。
どうぞ宜しくお願い致します。
対談 あなたの会社はなぜ『メンタル不調』者を量産してるの
著者:藤田英夫・𠮷野 聡 発行:シンポジオン 発売:三省堂書店/創英社
脱「三逆リーダー」
藤田 英夫 (著) 発行:ダイヤモンド社 発売:ダイヤモンド社
「個全システム」によるミーティング革新
藤田 英夫 (著) 発行:ダイヤモンド社 発売:ダイヤモンド社
不感症体質に挑む「人間力」全員経営
藤田 英夫 (編) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
経営の創造
藤田 英夫 (編) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
第3の組織論
小林 茂 (著) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
人間力をフリーズさせているものの正体
藤田 英夫 (著) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
人間力―そこにどう火を点けるか
藤田 英夫 (著) NTT出版
人を人として―指示待ち人間を目覚めさせるもの
藤田 英夫 (著) PHP研究所
「状況」が人を動かす―管理からリードへ
藤田 英夫 (著) 毎日新聞社
Copyright ©2018 MANAGEMENT CENTER Inc. All Right Reserved.