困った状況との闘いは頭のスポーツだ、とつくづくと思う。ちょっとやそっとでは思うようにいかない点で、そして鍛えられることにおいて、両者はそっくりだ。
組革研でこんな話しをしようものなら、すぐ湧き出てくる発言がある。仕事がそんなに厳しかったら、人はストレスで潰れてしまうのではないか、「うつ」が心配だ、というやつだ。
10年前の組革研でのことである。己の「人間力」に目覚め、自分が属する事業部の赤字体質の変革に俄然として挑戦すると言い残して職場に帰った人がいた。40歳の某大企業の人である。その数日後のことだ。その彼を派遣した事業部長から組革研の事務局に、「そんなことを言わせて、『うつ』になったら困るではないか」とのクレームがあったという。
このような見かたは人間を見誤っていると、私には思えてならない。げんにその彼は今、がんばって重責の地位についている。
医師でもない私の言なので、事この部分に関しては信用しないでほしいのだが、この分野の医学者を含めた世間の認識に対してひと言、記したい。
人びとが「うつ」状態になるのは、大変な問題を抱えたからではなく、自分の「存在感」、自分が「生きている手応え」を失いかけているからではないか、ということだ。私自身も専門医から「うつ」の入口だと言われたことがある。この体験も、私がそう考える動機の一つだ。
人間が生きていくということは、次から次へと問題にぶつかっていくということであり、それどころか意図とは逆に自ら問題を生み出していくということでもある。仕事ともなればそれはなお一層だ。我われ人間は四六時中、問題と共生しているのである。この人間世界はそのようにできているのだ。
大変な状況におかれると人は「うつ」状態になってしまうというのであれば、東日本大震災の被害者の人たちの苦境との闘いぶりを何と説明するのか。
脳科学者の茂木健一郎さんは、「仕事をさせられているのではなく、仕事を主体的にしているという感覚が(自分に)あると、どんなに忙しくてもストレスにならない」と言っている * 。
困った状況との闘いによって、人は潰れるどころか、多くの場合その反対なのだと私は確信している。人間はそのようにできているのではないか。
人生の苦しみには、条理によって生じるそれと不条理によって生じるそれがあることは承知している。
* 『文藝春秋』(2008年2月号)
(『人間力』第六章二より抜粋、少し加筆)
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