「人を大事に」と誰もが言う。ところがその「大事に」には、人によっておよそ異なる正反対の二つの人間観が存在しているのである。そしてその正反対の一方こそが、「狂っている仕事観」(別稿)と対となって、その対象となる人びとに決定的な衝撃を与えていくことになる。
二つのうちの一つは、人をして、何よりもその感情におもねって、と言うと抵抗があるならば尊重して、当事者が困ったり、悩んだりすること、つまり人びとが嫌がることを確定的に否とし、心地好い、楽な状態においていくことを是とする「人を大事に」である。
対するもう一つは、人をして、その感情は当面さておき、それにおもねることなく、困ったり、悩んだりすることを試練の機会として是とし、何よりも人びとに宿る「人間力」を芽生えさせ、成長させ、花咲かせていこうとする「人を大事に」である。私がよく口にする「人を人として」は、もちろんこれだ。
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人間に天与の力を「人間力」と「道具力」とに分けて考えてみると、この社会における人間問題の焦点がはっきりとしてくる。我われ人間は、必要によってこの二種の力を出すことができる。
「人間力」とは、主体的、創造的、個性的な力、即ち心の働きから発する力である。他に代替不能な人間本来の力であり、この力によって動いているときに、人びとは人間として生きている状態にある。「道具力」とは、その逆の心の働きを伴なわない力、他に代替可能な力であり、ロボットみたいな力である。
己の「人間力」で己の「道具力」が制御されているときに、人びとは人間としてきわめて自然な状態にある。
人間は誰もが、「人間力」を宿して生まれてくる。赤ちゃんを見ればそれは明らかだ。指示待ちの赤ちゃんなんて見たことがあるだろうか。彼、彼女らは何とも主体的だ。次から次へと自分で動いてしまう。親は指示を待ってくれないことに辟易とする。実に創造的だ。何でも遊び道具にしてしまう。一人ひとり顔つきが違うように、求めることもやることも個性的だ。
それがどうして、年齢と歩みを合わせるかのようにいつの間にか、指示待ち、非創造的、画一的になっていくのだろうか。そんな現象を、成長過程における必然だと見ているだけでよいだろうか。
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「人間力」を育むというと恰好はよいが、この途、実は容易ならざるものなのである。「人間力」は、楽状態の中で育まれるものではないからだ。このことは、自分自身とちょっと向き合ってみれば、誰の目にも明らかだと思う。
我われ人間が有する力を出すのは、問題に遭遇したときである。否応なく問題を抱え込むことになって、困り、悩み、苦しんでいるときだ。問題が大きければ大きいほど、有らん限りの力を出さざるをえなくなる。主体的でならざるをえなく、創造的にならざるをえなく、自ずと個性的な存在になってしまう。何事もない楽状態においては、それらを出すことはない。
(『人間力』第二章一より抜粋、少し加筆)
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