マネジメントに対する私の「視座」がどこから生まれてきたのかを、この三が日のお屠蘇気分の中で振り返ってみた。
私は学説なるものには疎い。経営学者とも付き合ったし中には友人もいたが、彼らからの影響は無いに等しい。ソニー創業者の井深さんや小林先生から受けたものは多大だが、それは私の視座が生成されてからのことだ。その視座こそが私をお二人に引き合わせてくれたのだと思う。そこで思い出すのは、年少のころの衝撃的な二つの原体験だ。
一つは「ユネスコ運動」である。一つは「東西冷戦の最中での東ベルリンでの体験」である。
前者について/高校卒と同時に始めたアルバイト先がユネスコ日本協会であった。ここで、「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和の砦を築かなければならない」という至言に出会うことになる。ユネスコ(United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization )はWHOなどと並ぶ国連の専門機関でありながら、「有史以来2000を数える条約が一つとして守られていない」として、あたかも国連本体を批判するかのごとく、前記をユネスコ憲章前文の冒頭に謳っているのであった。
私はこの「心の中に」に心を奪われた、いや、いかれてしまったと言うべきかもしれない。それこそ寝食を忘れてこの活動に没頭。大学も放り出してしまったが、それよりはるかに優る無二のものを我が身に刻み込むこととなった。その核心は「全ては心の中に」である。
後者について/25、6歳のころだったと記憶する。対ドル360円の固定レートの時代、親族・友人の送別会に見送られ、35、6時間をかけてのヨーロッパ行きとなった。西ベルリンに入った。たしか「Red Elephant」だったと思う、そんな英語名の1日1便の超小型バスに乗れば”鉄のカーテン”を抜けて東ベルリンに入れるという風説にありつく。真っ冷々の冷戦の真只中である。もしも帰って来られなかったら……。けれど「冷」をこの目でみたい。意を決した。
バスは7、8人を乗せて、東西ベルリンをつなぐ唯一の関門「Checkpoint Charlie」にさしかかる。かすかな動きで西側ゲートに接近。突如、どでかい女車掌のどなり声が車内の空気を劈く。みんなが一斉に飛び上がった。誰かがカメラを構えたのであった。ややおいて東側ゲートにさしかかる。バスは機関銃を身構えた兵士らしき5、6人に包囲される。2、3人が細長の鏡を斜めにバスの床下を映している。誰もがふるえていたであろう。もちろん私もだ。
恐怖の半時を費やしたバスは関門を後にした。10分も経っただろうか。大通りに出たところで停る。乗客の全員がそこで降ろされる。帰りのバスまでの5、6時間がフリータイム。
ただだだっ広いこの通り「Karl-Marx-Allee(カールマルクス大通り)」と言った。当てもなく歩いてみた。果てしなく冷たくピーンとした空気が覆い被さってくる。まばらな人影の中景の中、靴の足音だけがコツコツと遠く鋭く響いてくる。人の声はない。人びとの顔と体が固まっている。何なのであろうか、これは。
束の間の体験だったが、烈々としたものを我が身に刻み込んだ。管理主義が人びとにもたらす恐ろしさである。
□
二つの原体験は、いずれも国事の問題である。だがそれは、同時に「人びと」の問題である。企業内マネジメントに対する私の研究の視座の起源となったことは必然のようだ。
只今、サイトの更新を一時停止しております。
改めて更新を再開する予定ですので、少々お待ち下さいませ。
どうぞ宜しくお願い致します。
対談 あなたの会社はなぜ『メンタル不調』者を量産してるの
著者:藤田英夫・𠮷野 聡 発行:シンポジオン 発売:三省堂書店/創英社
脱「三逆リーダー」
藤田 英夫 (著) 発行:ダイヤモンド社 発売:ダイヤモンド社
「個全システム」によるミーティング革新
藤田 英夫 (著) 発行:ダイヤモンド社 発売:ダイヤモンド社
不感症体質に挑む「人間力」全員経営
藤田 英夫 (編) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
経営の創造
藤田 英夫 (編) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
第3の組織論
小林 茂 (著) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
人間力をフリーズさせているものの正体
藤田 英夫 (著) 発行:シンポジオン 発売:創英社/三省堂書店
人間力―そこにどう火を点けるか
藤田 英夫 (著) NTT出版
人を人として―指示待ち人間を目覚めさせるもの
藤田 英夫 (著) PHP研究所
「状況」が人を動かす―管理からリードへ
藤田 英夫 (著) 毎日新聞社
Copyright ©2018 MANAGEMENT CENTER Inc. All Right Reserved.