この項に関連して、二つのことをつけ加えておきたい。
その1は、 「強制」の源泉である。 これには二つがある。 「状況」と 「人間」だ。
強制力として願ってもないのが前者である。 状況からの強制に対しては、我われ人間は、しょうがないとして受け入れてしまうからだ。 ビルの屋上からバケツで水をぶち撒けたら、道行く人びとは怒るに違いない。 だが、急に土砂降りの雨になっても、天に向かって文句を言う人はいない。 ずぶ濡れになることにおいては同じなのだが。 人からの強制に対しては多くの場合、人びとの反作用・反発が付いてまわり、ときにその局面では造反さえ起こすことにもなる。 〝上〟の立場の人が〝下〟のそれが怖くて逃げるのもこれであろうが。
困った 「状況」は人びとの思考や動きを 「強制」する誠に好都合の材料なのだ。 マネジメントにおいてこれを活かさない手はない。 私が仕事の〝化粧はがし〟を勧める一側面もここにある。
その2は、言葉に憑かれていることからの脱出である。
現実を見ることなく、観念による言葉にとり憑かれた思考を一直線に続けていたのでは、対象たる我が子の人生を、部下の人生を、果ては自分の人生を、そしてこの世をおかしくしてしまう。
その代表例が強制イコール悪である。
善として、自由、平等、公平、民主主義……等々の言葉が人びとの口からよく出てくる。 国会の議論などには顕著だ。 それらの言は美しくはあるが、それらをこの世に実在するものとして当てにしていたら、それこそ無い物ねだりの不満の生涯を終えることになってしまう。
「自由」一つをとっても、それらは観念の世界のものであって、外からの強制力の作用のない実社会など存在しえない。 完全な 「公平」 「平等」また然り。
民主的は存在するが、完全な 「民主」はない。 私が尊敬してやまないヴァツラフ・ハヴェルさん、ビロード革命と言われた1989年の東欧革命によってチェコスロバキア共和国の大統領に就任し、同国分離後のチェコ共和国初代大統領になった劇作家のハヴェルさんは、米国の上下両院での1990年の演説において、 「民主主義とは、水平線のようなもの。 (中略)決して到達することはできません」と、永遠に我われ人間の手中にはなりえないことを公言していた。 強く共感する。
( 『人間力』第一〇章より抜粋、加筆)
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