数字化ならばよいのかということになる。 そういう場合もある。 が、数字は生々しさには程遠く、それを見た人が頭の中で現物に翻訳しなければならないことを承知しておきたい。
これを避けるために、アイシン精機工機工場では、予算管理に子どものおもちゃとして市販されている金券に工場長印を押したものを使用していた。
とは言え、どうしても言葉による代替が多くなるであろう。 その場合の要点は二つ。 一つは、むずかしい漢語を避けてやさしい言葉、子どもにもわかるくらいの表現をすること。 もう一つは、みんなで互いに質問し合うこと。 聞く、答えるをくり返し、答えたことをそのまま書いていくと、だんだんと生々しさに近づくことができる。 「要するに……」は最悪。
生々しさの重要性を示す実例を一つ紹介しておく。 アイシン高丘第一製造部での例である。
ある鋳物製品の製造ラインに歩留り最悪のものがあった。 なにしろ、直行率は約60パーセントでしかなく、人による手直しで約30パーセント、残りの約10パーセントは完全なおしゃか。 これでは採算も何もあったものではない。 もちろん管理者と言われる人たちや生産技術の人たちがこれに取り組んでいたのだが、どうにもならないでいた。 そこに副社長として親会社から転籍してきたのが、組革研での 「リーダー体験」豊かな浅野哲男さんであった。
実態を知った浅野さんの命によって行われたことは、日々の直ごとの不良の現物の全てを、工場の最も目につきやすい場所に並べ立てることであった。
これによる人びとへのショックは大きく、工場の中はたちまちにして蜂の巣を突ついたような騒ぎとなった。 不良の現物の山を目の当りにした関係者全員がじっとしていられなくなってしまったのだ。
その結果は、長い間なんともならなかった約60パーセントの直行率が、わずか3、4か月にして90パーセント台に上がったのであった。 オペレーターを含めた全員が立ち上がったからである。 ややおいて、この直行率は98、9パーセントにまで昇っていった。
( 『人を人として』第六章二より抜粋)
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