「化粧はがし」のキーポイントの第1は、「事実」を生々しく、 「ありありと」捉えることだ。
「事実」とは、解釈や評価あるいは感想など、人による観念化処理がなされていない、そのままの状態のものである。 このコラムではそれについて、哲学的な領域にまで深追いすることなく、実用レベルで記していく。
組革研には 「事実は神様」という言葉がある。 これに近づいた人たちに作用する、不思議な二つの大きな力を持っているからだ。 一つは、人間力発揮の糧としての力。 一つは、そうであるとかないとかの不毛な議論に陥ることがなく、誰にでも必ず受け容れられ、それを共有した人びとをしてその状況に参加させてしまうという、人を動かす力である。
ところがこの、事実を 「ありありと」捉えるということが、 「化粧はがし」の最初の関門となってくることになる。 というのは、今日の人びとが最も不得手とすることの一つだからだ。
今、必要な事実をありのまま見ることのできる人は稀だ。 多くの人が、事実を見た瞬間、勝手に観念化してしまうのである。 ものの見かたという来し方からの “チューナー” が頭の中に牢固となっていて、それで受信できるものだけを受け止める、あるいは、その事実を概念の再構築の糧にするのではなく、過去の観念をより固めるための材料にしてしまうのだ。
「空は青くない。 花は美しくない」―― 私が20歳代にマスコミの仕事をしていた頃、名取洋之助さんから聞かせていただいた言葉である。 日本の報道写真の先駆者である名取さんが日本人として初めて、真実の報道をうたって当時世界に冠たる 『ライフ』のカメラマンに採用されたとき、編集長から最初に聞かされた言葉がこれであったそうだ。
なるほど、空はいつも青く見えるわけではない。 見る人によっては、醜い花もある。 にもかかわらず我われは、空は青い、花は美しいと決め込んでいる。 それほど観念の虜になっているのだということを、私はこの言葉によって気づかせていただいた。
子どもの世界にまでこれが拡がっている。 幼稚園から帰ってきた娘に母親が 「お帰りなさい。 …この花どう?」と声をかけた。 すると娘は、花のほうを見向きもせずに 「きれいだわねぇ」と言い残して自分の部屋に消えてしまったのであった。 わが家でのこと。幼稚園に通い始めると 「花はきれい」に日増しに近づいていくらしい。 「裸の王様」を指摘できるのは3歳児までだ。
多くの職場で 「事実を見る」がお題目となっている。 〇〇活動でもずいぶん言われてきた。 にもかかわらず、そこで事実とされているものの多くは、事実からは遠く、解釈や評価、感想などの観念化されたものばかりである。
企業内に限らない。 国会中継を見ているとこれの多いのに呆れかえる。 それだけをとっても議論が収斂するはずがないことがわかる。 学会やジャーナリズムの中でさえよく見られる。 社会全般において、事実と観念の区別がついていないということだ。
この最初の関門は、そこに気がつき、その気にさえなれば突破できる。 訓練すれば、誰でも事実をありのまま捉えることができるようになるし、そうなれば、事実と観念化処理されたものとの区別もできるようになる。
( 『人を人として』第六章二より抜粋、加筆)
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