キャンパスリーダーの独り事

「心の窓が開いた」と社長/「個全システム」の実例
――横から目線の組織化・10  No.184

184CL.jpg  「個全システム」の活用については、気をくばってほしいことがいくつかある。 それ等については次週とし、そのまえにこのシステムを利用したドラマチックなミーティング革新の実例、それもトップマネジメントのそれを一つ紹介する。
  アルミニウム缶製造会社の大手・S社でのことである。 「横から目線」というよりも 「下から目線」とでも言うべきものかもしれない。 このミーティングを運用したのは、その後に親会社の役員となって今は退任したNさん。 彼は組革研のブロックリーダーを体験した人であった。
  3か年の中期計画を策定するために、社長以下の部門長が一堂に会する合宿ミーティングが予定されていた。 このミーティングのリード役を買って出たのが、親会社から出向してきてとりあえず企画室に籍をおいていたNさんであった。 彼は 「どんなに立派な計画を作ろうとも、ペーパー上のものではだめだ。 トップが自ら考えたものでなければ、経営の方向がしっかりしたものにならない」と、ミーティングの事務局を務める企画室長のMさんを口説いた。
  ミーティングは次のようにすすめられた。

資料 : 企画室によって用意されたものは、「これまでの3か年をふり返って」と題する経営の行動、経緯、そして結果の事実のみ。 もちろんそれは、よかった、まずかったと思われることの双方にわたっていた。 企画室の発言は説明と質疑応答だけにとどめ、意見らしきものにはいっさいふれない。

グループ編成 : メンバーは3つのグループに分けられた。 AグループはMC(経営会議)と称する社長、副社長、専務2人の計4人。 BグループはMCを除く役員4人。 Cグループは部門長(本社の部長、事業所長)の5人。

テーマ : 「3か年をふり返って、最も本質的な問題は何か」

すすめかた : ①テーマを模造紙に大きく書いて掲示し、テーマから外れないことに注意。 ②それぞれがA4紙に一件一葉で書く。 ③ ②をもとに質疑応答、討論をくり返していく。 ④グループとしてまとめる。


  第1回グループミーティングが開始された。
  予想されていたことではあったが、MCのAグループは、Nさんの注文どおりにやってはくれない。 A4紙に書き始めたのまではよかったが、一件一葉ではない。 Nさんがそれを片っぱしからはさみで切り分けていく。 社長が自分の書いたことに説明を始めてしまう。 すると他のMCメンバーは 「私のも一緒のことです」と言いながら、自分の書いたものを机の端に避けていく。 やっとのことで他のMCメンバーが説明を始めると、社長がすぐ「そりゃおかしいんじゃないか」。
  討論と言うにはほど遠い。
  3グループが集まって、いよいよ第1回統合ミーティングの開始。
  途中は略す。 打ちである。 評価基準は 「こんなグループではこれからのS社は心配だ!」。
  想像を絶することが起きた。 なんと、MCのAグループが、他グループの9人中の8人に を打たれてしまったのだ。 「MCとして、状況を見て、方針を出してほしい」、「絶対やるんだという運営をしてほしい」、「共有化があやしい」、「反省していない」などが主なコメントであった。
  それを受けて、第2回グループミーティングに入った。
  MCグループが一変。 自分たちの部屋に入るなり、社長が 「俺たちはMCなんだ! もっとMCらしくやろうぜ!」と叫んだ。 驚いた他のMCメンバー。

テーマ:「第三次3か年計画経営方針と重点課題について」


  今度は、Nさんの注文どおりにすすめてくれた。
  続く第2回統合ミーティング。
  他グループの9人全員がMCグループに を打った。
  翌朝の経営会議。 ここで中期計画が決定されることになる。
  その結果は、前日のものと一字一句が同じであった。 「よし、これでいい」と、MCのそれぞれが一行ずつ読みながらの進行。 専務が社長に食いつくという、それまでには見ることのできなかった光景も現れた。 終わって部屋を出る社長が、 「きのうのせいかなぁ、えらい活性化しとるな、みんな」と、独り言を口にした。
  それからの会議では、社長のほうから先に 「今日は紙とマジックが無いじゃないか」と言うようになり、自分の席を模造紙の近くに移していた。
  これで我が社も変わると、まず役員や部門長に夢が芽生え始めたのであった。 もちろんNさんは、人一倍喜んだ。 だがそれは、抗えない運命のいたずらの上にあった。 わずか4か月後の、あまりにも突然の社長の交替である。
  NさんとMさんは、相談役となった元社長から 「飯を食おう」と呼び出された。 そして、 「俺は君たちに礼を言いたい。 人生の最終コーナーで、ああいうやりかたをすれば、心の窓が開いて、心と心がぶつかれることを知った。 ありがとう」と。
  ( 『人を人として』第七章三より抜粋、加筆)

17.4.4.

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